第82話 裏技
本来、MPを回復させるには、一度地上に戻ってゆっくり一晩休む必要がある。
ダンジョン内で仮眠をとったところで、精神的疲労はそれほどとれず、MPも回復しない。
そもそも、いつ襲われるかわからない、という緊張感のせいで、ぐっすり熟睡などできようはずもなかった。
だが、裏技があった。
自分自身に、睡眠の魔法をかけるのだ。
みずから呪文を自分にかけてもいいし、仲間にかけてもらってもいい。
これで、一切の邪念を捨てて、泥のように眠ることができる。
もちろん、その間はほかのパーティメンバーの協力が不可欠になる。
市生は、ぐっすり眠っている美子の顔を見ていた。
30代半ばをすぎているが、けっこう色気がある女だ、と思った。
こういう女って、無理やり犯したらどんな声で鳴くんだろう?
「ねえ、ちょっと。寝ている女性の顔をそんなにガン見するの、やめてくれない?」
瑞葉が不快そうに言った。
レイプされそうになったり、食われそうになったりした瑞葉は、もうほかのメンバーに対する不快感を隠そうともしていなかった。
当然と言えば当然であるが。
ダンジョン探索中の仲間割れは致命的なリスク要因になる。
「いや、そういう意味じゃないよ。瑞葉、まだ怒ってるのか? あんときは悪かったよ。俺たち、多分、知らないとこで敵の幻惑魔法にかかっていたんだよ。許してくれよ」
「ふん」
瑞葉は市生と目を合わせようともしない。
けっ、このくそ女が。
いつか本当に犯してやるからな。
市生はそう思いながら、石郷丸から分けてもらった食料を口にする。
といってもアルファ米をお湯で戻したものだ。
そんなにおいしいものでもないが、これでもないよりはずっとましだった。
起きているパーティメンバーたちは、寝ている美子と遊斗を囲むようにしてアルファ米をモソモソと口に入れていく。
いち早く食べ終わった篠田が耳をそばだてて言った。
「ねえ、市生さん。なんか変な音、聞こえてませんか?」
石郷丸も、
「そうだな。これは……なにか、トラップを設置している音に聞こえるな……」
通路の向こうから、ガション、ガション、という音が聞こえてきているのだ。
「ふん。来るなら来い。トラップなど、この俺がブラックアックスですべて粉砕してやる」
歴戦のベテランである石郷丸の言葉を聞いて、市生は勇気づけられる。
まってろ、みのり。
絶対にお兄ちゃんが助けてやるからな……。




