第69話 どっちがまだまし
市生たちはそれぞれ部屋の四隅に背中を預けて座っていた。
お互いに距離をとっているのだ。
男同士で性行為?
俺以外の二人がやるなら勝手にやればいいが、俺は絶対にやらんぞ。
三人の男子生徒は全員がそう思っていた。
「ねー。あんたたち、なにもしないの?」
瑞葉が冷たい声で言う。
問われた男たちは黙ってうつむいている。
「ふん、女を犯せるいい口実ができたと思ったら目の色変えて襲ってきたくせに。だっせーやつら」
返す言葉もないので、男どもはなにも言わない。
「あのさー。みんな、食糧持ってきてる? 私はチョコバーが三本だけなんだけど」
誰もなにも答えない。
全員、大した量の食料を持ってきていなかった。
そもそも、そんな何日もかけて探索するつもりでもなかったのだ。
このダンジョンは自分たちが本拠にしていて、細部までマップを把握している。
一日もかからずにみのりが捕らわれている地下十階まで到達できるはずだったのだ。
まさか、こんなところで閉じ込められるとは。
「食料はまだいい。問題は……水だ」
市生がぼそっと言った。
そう、このダンジョンはそもそも、飲める湧き水が豊富で、それぞれは1リットルも入らない小型の水筒しか持ってきていなかった。
ところが、この部屋には水が湧いていないのだ。
「あのさー。人間って水なしに何日生きられるか、知ってるか?」
遊斗が尋ねる。
誰も答えないので、遊斗は自分で答えを言った。
「三日だよ。それまでにここを脱出できなかったら……俺たちはおしまいだ」
それを聞いて篠田がうつむいたまま、
「じゃあ、やっぱり俺たちのうち二人がどうにか性行為をするしかないすか」
「ふざけんな豚! お前と遊斗がやれよ!」
「いやすよ。俺は女専門なんすよ」
遊斗も顔をゆがめて、
「俺も冗談じゃない。絶対に断るぞ」
瑞葉が茶髪をかきあげて冷たく言う。
「やらないなら、私たち全滅だね。私たちが死ぬってことは、市生、あんたの妹も死ぬってことだよ」
それを聞いて市生はぎりっと歯を食いしばった。
くそが。
こんな卑劣な罠をしかけやがって。
だが、そうだ。
ここで俺が死ぬってことは、あの純粋で虫も殺せないようなかわいいみのりも死ぬってことだ。
それだけは、絶対に受け入れられない。
だから……。
市生は篠田と遊斗を、血走った目でぎょろぎょろと交互に見た。
――いざとなったらやるしかないじゃないか! ……やるならどっちがまだましだろう?




