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転生侍女は推しを死なせたくない ~気づいたら推しにも騎士にも暗殺者にも愛されていた~  作者: 村沢黒音
第6章 推しに真実を話します

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59.女神の計略


 勇者パーティーは別行動をすることになった。


 私たち「魔人族の国に行こう組」は、ヴィリロスを倒して、魔剣を入手する。

 エレノアたち「女神を復活させよう組」は、今まで通りに妖精を集めて、女神を復活させる。仮にこのチームの動きがうまくいって、女神が復活しても、「浄化」の鍵となるゼナとアイルは私たちチームが握っている。


(魔人族の国で魔剣を手に入れたら、スフェラを倒すことができる……)


 私の気分は高揚していた。

 今までずっと、レオンも私も手探り状態だった。スフェラに対抗する手段がなかった。

 しかし、今はちがう。邪神を倒す算段が付いた。


 このまますべてはうまくいくと思った。

 だけど。世の中はそんなに甘くなかった。


「昨夜、女神様が私の夢に現れて、神託を下さいました」


 次の日。

 皆を部屋に集めて、エレノアが厳かに語り始めた。


「今、魔人族の国に向かうのはやめた方がいいとのお言葉です。彼の国は邪神とその意向に染まり、とても危険な地域となっています。もし彼の地に向かうのなら、女神様が復活を果たし、その加護を頂いてからの方がよいとのことです」


 私はハッと息を呑んだ。

 思わずレオンを顔を見合わせてしまう。


(スフェラ……! とうとう動き出したのね)


 今までスフェラは封印されていることもあり、目立った動きを見せることはなかった。それが突然、エレノアに夢を見せてまで、私たちの行動をコントロールしてきたのだ。

 これはある意味、スフェラが焦っていると捉えることもできる。


 私は心配になって、周りを見渡した。

 案の定、勇者たちはエレノアの言葉に頷いている。


「女神様がそうおっしゃるのなら」

「ああ、そうだな」


 当然、女神様の言葉に異を唱えるメンバーはいなかった。

 私はすばやくレオンに目くばせをする。


(どうする? レオン)


 すると、レオンも神妙な顔つきで私を見やる。


 ――後で、端の部屋まで来い。

 ――了解。


 そんなやりとりを目線で交わす。



 ルイーゼもレオンも気付いていなかった。

 2人が目配せを交わしていた、その時。

 アイルが2人のことを怪訝な顔で見やっていたということに。




 勇者たちから離れて、私たちは緊急会議を開いていた。


「スフェラめ。エレノアに言葉を託して、俺たちを操ろうとしてくるなんてそうとう焦っているのだろう」

「でも、まずいよね……女神様のお言葉は、今の勇者パーティーには絶対だもん」


 と、私たちは頭を抱える。


「みんなにスフェラは邪神だから、その言葉は信じるなって教えてみるのはどう?」

「スフェラが悪であることをどうやって証明する? 俺たちの方が異端だと弾圧されるだけだ」

「レオンループその2の結末。『異教徒だと弾劾され、投獄される』――バッドエンド」

「黒歴史を掘り起こすな」

「黒歴史」


 私は吹き出してしまった。レオンみたいな美形男が、苦虫を噛み潰したような顔で「オタク用語」を口にするのはとてもシュールだ。


「でも、私は最近、思うんだけど。そろそろアイル様には真実を話した方がいいんじゃないのかな」

「ああ、そうだな」


 と、2人で頷いていた時のことだった。


「僕に何を話すって?」


 突然、その声が割って入って、私たちは固まった。

 恐る恐るとそちらを見やると、アイルが険しい眼差しで佇んでいる。


 あ、アイル様……!?


 私は愕然と口を開く。

 一方、レオンは落ち着き払った様子だった。私に向かって冷静に告げる。


「こうなっては、これ以上、先延ばしにできないだろう」


 そして、またもや目で合図を送って来た。


 ――お前から話せ、と。


 私はむっと顔をしかめて、レオンに挑戦的な視線を送り返す。


 ――うるさい。わかってるよ。でも、あなたに指図されるのは、何だか腹が立つ!

 ――いいから、さっさとしろ。


 と、やりとりをしていると。


「2人だけでそうして、わかったように意思を交わすのはやめてくれ……」


 複雑な顔をしたアイル様に、そんなことを言われてしまった。


「ち、ちがいます、アイル様! レオンとはほんと、何でもないんですよ!」

「そうです、アイル様。それよりも、ルイーゼの話を聞いてはもらえませんか?」


 レオンの言葉で、深刻な雰囲気を悟ったらしい。

 アイル様は真剣な眼差しに戻ると、私たちの前までやって来た。


 私は意を決して、アイル様と向き直った。


「アイル様……。すぐには信じがたい話かもしれません。でも、私たちの話を聞いてはもらえないでしょうか」

「ああ、聞かせてくれ」


 アイルの澄んだ碧眼を前に、私はごくりと唾を飲みこんだ。

 信じてもらえるかどうか、わからない。もし信じてもらえなかったら……。緊張で指先が震える。


 私は深呼吸を1つしてから、語り始めた。




「ルイーゼの前世? そこでは僕たちの話が語られている?」



「レオンが時を遡り、何度も同じ時をやり直している……?」





「――女神スフェラがこの世界を滅ぼすつもりである、だと!?」





 アイルの驚愕は、話を進めるごとに深いものへと変わっていく。

 私がすべてを語り終えた後は、放心状態のようになっていた。


 重い沈黙が室内に満ちる。私は胸の前で掌を握り、レオンは険しい表情で黙りこむ。そして、2人でアイルの顔をじっと見つめていた。

 どうか信じてもらえますように、と祈りをこめながら。


 アイルが頭を抱える。今聞いた話を噛み砕いて、自分の頭に理解させるように、ゆっくりと目をつぶった。

 更に重い沈黙が通り過ぎてから。


「…………ルイーゼ」

「はい」


 名前を呼ばれて、私は背筋をぴんと伸ばした。


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