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転生侍女は推しを死なせたくない ~気づいたら推しにも騎士にも暗殺者にも愛されていた~  作者: 村沢黒音
第5章 推しとラブコメしています

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57.協力体制


 ヘルマンの言葉に、私とレオンは唖然とした。


「皇帝……? 正気に戻したいって……。あ!」

「そういうことか」


 そして、2人で同時に理解した。


 スフェラを当面の敵として認識するばかりで、もう片方の邪神がやらかしたことを忘れかけていたのだ。

 邪神ヴィリロス。こいつもそうとうな邪悪だ。魔人族をそそのかし、ヒト族の国と戦争をするきっかけを作り出しているのだ。

 『邪神ヴィリロスは魔人族の王を洗脳している』とレオンから聞いた覚えがある。

 つまり、現皇帝がキングオブヒャッハー民族になっているのは、すべてヴィリロスのせいなのだ。


「皇帝がおかしくなっていることに、あなたたちは気付いていたってわけね」

「あなたたちも知っていたのですか。それも予言の力ですか?」


 ヘルマンは目を細めて私を見やる。

 私はレオンと一瞬だけ目を見合わせてから、ヘルマンさんに向かって頷いた。


「そう。スフェラとヴィリロスは競い合っているの。彼らはヒト族と魔人族を争わせようと様々な工作をした。そのうちの1つが魔人族の国の皇帝の洗脳」

「洗脳……?」


 ヘルマンたちは、そこまでは知らなかったようだ。

 エリックも、ヘルマンも、目を丸くしている。


「つまり、皇帝の様子が突然変わったのは、すべて神のせいだった……というわけですか」

「ちっ、えげつねー神サマたちだな」


 私はレオンの顔を見た。


「レオン。皇帝の洗脳ってどうしたら解けるか、知っている?」

「経験がない。だから、他の方法は思い付かない。確実なのは、ヴィリロスを滅することだろう」

「おいおいおい。あっさり言ってくれるな。神を殺そうだなんて。あんたら想像以上にイカれてやがるな」

「我々だって、スフェラを滅することを望んでいました。殺す神が1柱増えた、というだけでしょう」


 エリックは顔をしかめて、ヘルマンはやっぱりクールな面持ちでさらっと流している。

 私はしゃがみこんで、ヘルマンさんと目線を合わせた。


「あなたたちはスフェラを滅ぼす方法を知っているの?」

「あ? 知らねーよ。知っていても、てめーらに教えるわけがねーだろ?」

「エリック」


 一言で咎めてから、ヘルマンさんは私に視線を移す。


「もし知っている、と答えたら。どうしますか?」

「それを教えてほしい。その代り、私たちはヴィリロスを倒す方法を教えてあげる」


 その言葉にヘルマンさんは目をつぶった。

 考えをまとめているのだろう。


 そして、ゆっくりと目を開く。


「いいでしょう」

「おい、旦那!?」

「皇帝は……昔のヴォルフ様はあのような方ではなかった。私はヴォルフ様を救いたい……どんな方法をとっても」


 ヴォルフ様、とその名を呼ぶ時、ヘルマンの声はいつくしむような響きをまとっていた。

 皇帝と臣下だから、という関係だけでない。両者の仲にはもっと複雑なしがらみが存在するのだろう。


 今度、詳しくお聞きしたい。2人の関係性と過去編の内容によっては、薄い本が製造できそうだ。

 と、そんな話は置いといて。


 ヘルマンは私に冷徹な目を向ける。


「私たちが知っていることを話しましょう」

「同盟成立、だね」


 こくりと頷いて、私は手を差し出した。

 その手をヘルマンは怪訝な視線で見やる。


「その手は何でしょうか」

「私の生まれた所では、こういう時は握手を交わすものなの。魔人族の国ではちがうのかな?」

「後ろの騎士様は殺意をこめた目で我々を睨んでおりますよ。そちらの反応の方が普通でしょう。もし私がその無防備な手を切り裂いたら、どうするのですか」

「『俺たちのことを信用してもらいたいなら、まずは俺たちが相手を信用するべきだよ』私の大好きなゲームに登場する、勇者様の台詞だよ。ね、レオン?」

「確かに何度も聞いた覚えがあるな」


 私と目が合うと、レオンは殺気をすーっと薄めた。複雑そうな表情で頷いている。

 まあ、レオンは何度もループしてるからね。勇者たちとの会話パターンはあらかた回収しつくしちゃっているんだろう。


 私とレオンのやりとりを、ヘルマンさんは静かに見やっている。

 そして、呆れたように肩をすくめてから、


「つくづくあなたは不思議な方ですね。予言師ルイーゼさん」


 と、私の手を軽く握るのだった。





「ルイーゼ!」


 ヘルマンたちが投獄されている牢を後にして、私たちは勇者一行が待機している部屋へと向かった。

 扉を開けると、暖かい眼差しが私に降り注がれる。

 ある者はホッとした顔で、ある者はパッと顔を明るくして。私の方へと駆け寄って来た。


「もう体は大丈夫なのか?」

「ユーク様、皆さま。ご心配をおかけしました」


 私はみんなに向かって、ぺこりを頭を下げる。

 コレットは私の腕に抱き着いて、にこにこ。イグニスはホッとした面差しで頬をゆるめている。アイル様が複雑そうな表情で私とレオンを見やっているのは、少しだけ気になるけれど……。


 あらかた喜び合ってから、私は本題を切り出した。


「実は眠っている間に、新たな予言を授かりました」


 その言葉に皆が息を呑む。真剣なまなざしで私のことを見据えた。


「邪神を滅するためには、魔人族の国――ディートヘルムに潜入して、魔剣を入手しなければならないようなのです」


 邪神は邪神でも、ヴィリロスの方じゃなくてスフェラのことなんだけどね。

 その点については、今は口をつぐませてもらおう。


「魔剣……?」


 と、勇者たちは驚いて、目を瞬かせている。

 私の言葉に不愉快そうに眉を寄せたのは、たった1人だけだ。


「何寝ぼけたことを言っている。邪神ヴィリロスを滅するために必要な剣なら、ここにある」


 と、ゼナはユークの持つ剣を指さした。


「勇者にしか扱えない聖剣。これこそが邪神を滅する唯一の力だ」

「確かにユーク様の持つ聖剣は絶大な力を宿しています。しかし、ヴィリロスはスフェラの聖剣に対抗するために、1振りの剣を作り出したのです。その魔剣が正しき使用者の手に渡る前に、我々の手中に収めておくべきだと私は思います」


 邪神を滅する方法は、実にシンプルだった。

 ユークの持つ聖剣があればヴィリロスを倒せる。そして、魔人族の国にある魔剣があればスフェラを倒せる。


 つまり、私たちと魔人族が協力して、2本の剣を手に入れることができれば、邪神2柱をどちらも倒すことができるのだ。


 ユークとエレノアは目を丸くしている。

 考えこむような沈黙が辺りに流れた。


 それから、エレノアがこくんと頷いた。


「スフェラ様の神託には、そのようなお言葉はありませんでしたが……でも、ルイーゼさんの予言はいつでも正しかった。私はあなたのお言葉を信じます」

「ルイーゼがそう言うんならそうなんだろう。俺も信じるよ」


 この2人の発言はパーティーにおいても重要な意味を持つ。他の仲間たちも彼らに追従するように頷いている。

 その中で、疑心を強めているのはゼナだけのようだった。


「はっ、またハッタリ予言か?」

「ゼナ!」


 ユークが咎めるように声を上げる。

 だが、ゼナは言葉を止めなかった。


「お前のハッタリにはもう騙されない。ルイーゼ、お前……何を企んでいる?」


 射抜くような視線から、私をかばうようにレオンが立った。


「ゼナ。彼女の予言はすべて本当だ。今までだって、ルイーゼが間違えたことはないだろう?」

「ああ、お前はいつだってルイーゼの味方をするだろうな。黒騎士レオン。だが、それも当然だろう」


 レオンと対峙しても、ゼナの勢いは止まらない。

 もうすべてわかっているのだぞ、と力強い言葉で言い切った。


「お前のように堅実な男が、恋人の言葉を疑うはずがないだろうということはな!」

『………………は?』


 え? は? なに……?

 思考が止まった。


 ゼナの言った言葉がその瞬間、本気で理解できなかった。

 それはレオンも同じようで、私と一緒に愕然としている。


「え……? あれ? ちょっと待って、ゼナちゃん……今、何て言った?」

「お前のハッタリにはもう騙されないと……」

「ごめん。その後」

「レオンがお前の味方をするのは、お前たちが恋人だからだろう、と言ったことか?」

「え……ええー……」


 動揺に次ぐ動揺。

 そして、唖然。

 間の抜けた沈黙が通り過ぎる。


 彼女の言葉がようやく浸透して、私たちは同時に声を張り上げた。


「な、何言ってるの!?」

「ない! 断じてありえん!」

「ないないない! レオンルートとか! いつフラグたったの? って感じだし!」

「なぜ、俺がこんな女と!」

「こんなって何!? それは私の台詞だよ! 私だって、あなたみたいなぶち切れる度に殺気振りまいてくるおっかない男……!」


 と、私たちが慌てて弁解していると。


「え、ちがったのか!?」


 驚きの声が上がった。その主は勇者様だ。

 いや、彼だけでない。

 他の仲間たちも「何を今さら」みたいな顔で、私とレオンを見やっていた。


「ワシもてっきりそう思っていたが」

「いつも一緒にいるものね」

「よく2人でこそこそ話してるもんねぇ」


 ゼナが頷いて、鋭い顔で私を見やる。


「お前がさらわれた後のレオンの様子で私は気付いた。この男、そうとうお前のことが心配だったようで……」

「言うな!」


 その言葉にレオンが真っ赤になった。


 いや、そこで赤くなるのは悪手だから……。

 と、思いつつも、私もじわじわと熱が這い登ってくるのがわかる。


 そこでアイル様が大きくふらついた。魂が抜けたような顔でその場に崩れ落ちる。それをすばやく支えたのはイグニスだった。


「アイル様!? 気を確かに!」

「そうだったのか……レオン……ルイーゼ……」


 コレットは涙目で私に詰め寄って来る。


「嘘でしょう、ルイーゼ! だって、私、そんな話、聞いたことないけど!? 親友の私に話してくれていなかったなんて……!」

「ちがうちがーう!」

「ありえん! 誤解だと言っているだろう!」


 一気に騒然とする室内。

 私は必死で弁解しながら、途方に暮れていた。


 なんでこうなっちゃったの。

 というか、魔剣の話はどこいった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 全て! なるほど、そんな風に見えてたんですね……。 レオンとルイーゼ……。この2人のカプ好きなんですよね! なので今回は読んでてものすごい面白かったです! 時間あったので読み返したんですが…
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