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転生侍女は推しを死なせたくない ~気づいたら推しにも騎士にも暗殺者にも愛されていた~  作者: 村沢黒音
第4章 推しと冒険の旅に出ます

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47.疑われています


 ゼナの険しい眼差しに、私の背筋がぞわわっとなった。


 出た! またですか! 『お前は何者だ』ルート!

 それ、もうレオンで経験済みだよ!(そして、その時のことはナンバーワン恐怖体験として、この身に刻まれている)


 こんなの、何度も経験したくないよ……。


 まあ、暗殺者然としていたレオンに比べれば、ゼナのそれには殺気は感じられなくて、苛立ちからくるピリピリだから、まだマシとはいえ。


 ゼナちゃん……よっぽど自分に神子の素質がないことを気にしてるんだな。


 私は面を伏せた。なまじゲームでゼナの葛藤や悩みを目の当たりにしているだけに、申し訳なさが募る。


「ごめんなさい……」


 その言葉は自然と口を吐いて出た。

 今の私の正直な気持ちだ。


 秘密にしていることを暴かれたら、そりゃ誰だって嫌だよね……。


「ゼナさんの知られたくない秘密を、私なんかが知ってしまって……」

「私に神子の力がないということも知っているようだな」

「はい……」


 私が頷くと、ゼナは静かに続けた。


「なるほど。しかし、腑に落ちない点がある。お前は夢の中で予言が見えると言っていたな」

「はい、そうです」

「その情報だけで、なぜ敵が神子勢力なのだとわかった?」

「それは……えっと、相手の格好から判断いたしました」

「見ただけで、その女が神子であるとわかったのか? 人間であるお前が、竜人族の神子の風習を知っていたのか?」


 ひゅ、っと私は息を呑んだ。


 ゼナの疑問はもっともだ。この世界において、人間と竜人族は長らく関係を持っていない。竜人族の独特の風習について、人間である私が知っているはずがないのだ。


「それは……その。様々な状況から判断したと言いますか……」

「本来、王族に備わっているはずの神子の力が、私に発現しなかったということも……予言で知ったのか? 夢の中でお前はどういう光景を見たのだ?」

「えっと……それは」


 鋭い……鋭すぎるよ、ゼナちゃん。


 確かに、私の予言能力は「夢で見える」ということにしている。ということは、知っている情報は視覚から得られるものだけ。そのはずなのに細かい情報まで私が網羅しているのはおかしい。その通りだ。


 私はぐうの音も出ずに黙りこむ。

 ゼナが眉をひそめて、私を睨み付けた。


「……やはり、お前の話は信用できない」


 吐き捨てるように呟かれた言葉。ばしんと右頬を叩かれたかのような衝撃だった。きゅ、と胸が痛くなって、私は目を逸らす。


 その時、扉が開いて、


「あれ。ルイーゼさんとゼナさん。どうかしましたか?」


 エレノアがきょとんとした顔で部屋に入ってくる。

 ゼナは忌々しげに顔を背けて、私は何も言えずに俯いた。


 気まずい沈黙が流れていく。

 ゼナと私の間を隔てるように部屋の中央にわだかまって、寒々しい空気を放っていた。




 結局、私はゼナを納得させられないまま。

 ピリピリとした雰囲気を抱えたまま、次の日となった。


 すなわち、作戦決行日だ。


「いつにもまして、腑抜けた顔をしてるな」


 朝。

 顔を合わせるなり、黒騎士に嫌味を投げつけられて、私のテンションは駄々下がりだ。


「ちょっと寝つきが悪かったの。っていうか、会うなりイヤミとかありえない。少しくらい気遣ってくれてもいいんじゃない?」

「それは俺の役目じゃないだろ。推しでも吸っておけ」


 レオンはめんどくさそうに言って、私の背中を押した。(っていうか、最近はレオンの方がオタク用語を駆使してない?)


 よろめく私は、廊下の曲がり角にふらふら。向こうからやってきた人物に、ぶつかりそうになってしまった。


「わ、あ、アイル様!」

「ルイーゼ」


 この3年間でぐっと背が伸びたアイル様は、私のおでこがちょうど肩にあたる。まるで抱き留められるかのような格好で、肩に手を置かれた。


 って、近い、近い! 最推しがイン・マイ・ソーシャルディスタンス!


 至近距離で目を合わせて、アイル様はその美しい碧眼を気づかわしげに細める。


「大丈夫か。顔色が悪いように見える」

「え、あ、その……!」

「今度は赤くなった。熱でもあるのか?」


 ふ、と小さく声が聞こえた。そちらを見たら、レオンが顔を逸らして口元を抑えている。

 笑ってんじゃないよ、そこぉ!


「だっ、大丈夫、です!」


 私はぶんぶんと腕を振って、アイル様から離れた。


「なんでもないです! 私は元気ですよ、ほら!」

「無理をしてないか」

「していません! いつも通り、元気です!」

「そうか。それならいいが。もし君に何かあったら、僕は……」


 アイルは何かを言いかけて、首を振った。


「……いや、何でもない。体には気を付けてくれ」


 その真摯な瞳に、私の胸がどきんと跳ねる。


 え、なに。

 今、何を言いかけたの?


 すると、ドキドキとした空間に水を刺すような言葉が背後から。


「お気楽だな。能天気というべきか?」


 ゼナが呆れきったように、目を細めている。

 私と視線が合うと、ぷいっとそっぽを向いて、去って行ってしまった。


 うう……私、本格的にゼナちゃんに嫌われちゃったのかな……。


 がっくりと落ちこんでいると、またまた後方から、


「大丈夫ですか?」


 今度は気づかわしげな声音。


 振り返ると、そこにはきらめく聖女様!

 エレノアの姿があった。


 エレノアは聖母のような微笑みで、私の前に立って、肩に手を置く。

 そして、何か祈りのような言葉をつぶやいた。彼女の掌に清らかな光が灯り、私の体がぽっと温かくなる。


「回復魔法です。ルイーゼさんの気持ちが少しでも落ち着きますように」

「ありがとうございます。エレノア様」


 エレノアの優しげな言葉と表情に、私の心が軽くなる。

 私たちは顔を見合わせて、静かにほほ笑み合った。


 さて、本番はこれからだ。


 ゼナちゃんの誘拐イベント……絶対に阻止してみせる!


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