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再会


「やあ、久しぶりだね。子猫ちゃん。元気にしてた?」


 校門を抜けたところで声を掛けられ、私は硬直してしまった。


「どうしたの? 幽霊でも見たような顔して」


 アトレーユ王子の言う通り、きっと私は幽霊でも見たような顔をしていたんだろう。だって、アトレーユ王子はフリージアさんが連れて行ったっきりで、てっきりもう戻ってこないと思っていたのだから。


 その思考を読み取ったようにアトレーユ王子は私に告げる。


「フリージアからこってり絞られたよ。おまけに教育係からは厳しく躾け直させられてさ」

「そ、そうでございますか。それはそれはさぞや大変だった事でしょう」

「なにその喋り方。君ってそんなに殊勝だったっけ?」


 そんなこと言われても、あんな事があったし、仕返しに何をされるかたまったものじゃない。

 ここは穏便にやり過ごすのだ。


「私、急いでおりますので、これで失礼いたします」


 そそくさと立ち去ろうとした私の腕を、アトレーユ王子が素早く掴む。

 ひぃ! 顔はやめて! せめてボディで!


 そんな私の内心とは裏腹に、なんとアトレーユ王子は私の手を取ったままその場にひざまづく。あのアトレーユ王子が!

 いつの間にか周囲は生徒達が集まっていて、その様子を見守っている。そんな中、アトレーユ王子は改まったように口を開いた。


「ユキ様、今までのご無礼をどうか許していただけませんでしょうか? 僕はこの1ヶ月、城で再教育を受けた結果、自分がどれほど愚かな行いをしていたかに気付かされたのです。だから、あなたからの赦しが欲しい。どうかお願いいたします」


 え、なに、本当に? ドッキリじゃなくて? 本当に改心したの?


 周囲を取り巻く生徒達もかたずをのんで見守っている。

 まずいな。ここで王子様に「許しません」なんて言える雰囲気じゃない。

 だって、跪くアトレーユ王子は、中身はともかく、神々しいほどの気品に包まれていて、まるでおとぎ話に出てくる紳士的な王子様のよう。断れば私が悪者扱いされそうだ。

 

「……わかりました。私にした事は許します。でも一つだけ条件があります。二年生のジェイド・グランデールにも謝罪する事。それでこの件は終わりにしましょう」


 私のせいで顔に青あざまで作ったジェイド君。彼の名誉も挽回させたかった。


「わかりましたプリンセス。必ずや約束は守りましょう」


 ずいぶん物分かりがいい。本当にアトレーユ王子? 影武者とかじゃなくて?

 猜疑心溢れつつも、言いたいことは言ったので手を離そうとするが、アトレーユ王子がそれを許さない。

 な、なに? まだ何か?


「ついでに不躾なお願いなのですが……1ヶ月後のダンスパーティーで僕のパートナーになっては頂けませんでしょうか?」


 その途端、周囲の生徒が沸き立った。

 え、なに? そんなにすごい事? 


「ええと、あの、ダンスパーティーって?」

「あれ、ご存知ありませんか? 学院を卒業後の男女が、互いのパートナーとダンスを楽しむ行事です」


 ほほう。アメドラによく出てくるプロムみたいなものかな。

 ていうかあと1ヶ月で卒業か。早いなあ。

 でも正直アトレーユ王子とは踊りたくない。建前上は許したけど、私は本当は彼を心から許していないのだから。

 そんな事を考えた後に出てきた言葉は


「……考えさせてください」


 またもや周囲がざわめく。


「アトレーユ様のお誘いをお断りするなんて……」

「きっとあの子もまた……」


 え、ちょっと、不安を煽るような事言わないでよギャラリー。


 アトレーユ王子も驚いたような顔をしていたが


「まあいいさ。どうせ君は僕のパートナーにならざるを得ない。壁の花になりたくないんだったら、よく考える事だね」


 やっぱり出てきた。黒アトレーユ。改心してるとは到底思えない発言。


「パートナーになりたかったらいつでもおいで。待ってるから」


 アトレーユ王子は私の手を離すと、取り巻き達とともに校舎に入っていった。




「どうしようミリアンちゃん。アトレーユ王子のパートナーにさせられそう……! ていうか私ダンスなんて全然踊れないのに!」


 校門での出来事をミリアンちゃんに説明すると、彼女は深い溜息を吐いた。


「まったく困ったものですわね。あの方にも」

「この際ジェイド君にパートナーを頼もうかな」

「それは無理ですわね。グランデールは二年生。パーティーに参加できるのは卒業生だけですわ」

「そ、そうなんだ……それじゃあこの前『家臣にしたください』って言ってきたあの人でも……」

「それも難しいでしょうね」

「え、どうして?」


 家臣はともかく、パートナーになってもらうだけなのに?


「王子が公衆の面前でパートナー申し込んだ女性と一緒にパーティーに参加できる男子がいると思いますか? よほどの厚顔無恥でなければ、王子のパートナーを奪ったとして糾弾されるかもしれないという事です」

「ええー、なにそれ面倒くさい」

「それを見越して、アトレーユ様はあの場であなたをパートナーに誘ったのかもしれませんわね」


 くっ。あの腹黒王子。全然改心してないじゃないか。

 ぐぬぬ。このままでは壁の花になるしかないのか。

 と、そこで重大な事を思い出した。


「どうしよう。私、ドレス持ってない」



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