0094話
「なるほど。効果はあっても限定的か」
モリクの言葉に、アランは頷く。
岩による爆撃を終えてラリアントに戻ってきてから、アランは早速モリクに攻撃の成果を説明した。
その説明を聞いたモリクは、納得はしているものの、若干残念そうな表情を浮かべている。
モリクにしてみれば、出来ればもっと大々的な成果が欲しかったというのが正直なところだった。
とはいえ、それでも最低限の成果は出している以上、アランに文句を言うつもりはなかったが。
「はい。ただ、元々直接的な被害はあれば儲けものって感じの作戦でしたから、その辺はしょうがないかと。精神的な意味では、向こうにも相応の被害を与えたと思います」
「だろうな。そうなると、アランにはこれからも何度か敵に襲撃して貰う必要が出て来るが、構わないか?」
「それは問題ありません。次からは今回のように、わざわざ姿を見せる必要もありませんしね」
最初に岩を落としたときに姿を見せたのは、あくまでも自分が……ゼオンがこの攻撃を行っているということを、ガリンダミア帝国軍に示すためだ。
そうすることによって、これからの敵の進軍速度を少しでも遅らせるというのが目的だった。
そうである以上、次の襲撃からはわざわざ姿を見せなくても、岩が上空から降ってくるようなことになれば、それを誰がやったのかというのは、向こうも理解するだろう。
であれば、今回のように高度を下げて相手に姿を見せつける必要はない。
……もっとも、やはり姿を見せた方がガリンダミア帝国軍も誰が襲ってきたのかというのを改めて知らしめることになるため、出来るのならゼオンの姿を見せつけた方がいいのだが。
「だと、いいんだがな」
「え?」
モリクの言葉にどこか不安そうな雰囲気があるのを見てとったアランが一言小さく呟くが、それを見たモリクは何でもないと首を横に振る。
「いや、取りあえず今後の一件については任せる。出来るだけ敵に嫌がらせを続けてくれ」
「はぁ、分かりました。やれるだけやってみますけど……」
モリクの態度に疑問を覚えたアランはそう返すも……その言葉の意味が分かるのは、翌日に岩を持って出撃したときのことだった。
「……え?」
岩を手に出撃したアランは、地上のガリンダミア帝国軍が突然妙な行動を取ったのを見て、疑問の声を上げる。
一ヶ所に固まるのではなく、それぞれが一定の距離を取って離れたかのような、そんな隊形を取ったのだ。
それがどのような意味があるのか最初は分からなかったアランだったが、すぐに納得する。
つまり、ガリンダミア帝国軍の狙いは被害を最小限にするためであり、岩が降ってきたときに回避しやすくなるようにしたのだろうと。
まだ岩を落としておらず、高度数キロの位置を飛んでいるというのに、すでにゼオンの存在を確認されてしまったのだ。
その対応の素早さと、何よりそれを可能とするだけの練度の高さには驚く。
(基本的に征服した小国から徴兵したとかいう話だったけど、それでもこの程度の動きは出来るのか。……とはいえ、今は敵の攻撃が届かない位置から、岩を落とすしか出来ないからな)
敵の攻撃が届かない場所からの、一方的な攻撃。
それが戦いにおいてどれだけ有利なのかは、考えるまでもなく明らかだろう。
とはいえ、攻撃をする方としては地上に落とす岩の数が限られている以上、どうしてもそこまで致命的な効果を発揮出来ないのだが。
ともあれ、相手が具体的にどのような対抗策を考えていたのかを見るためにも、まずは攻撃をする必要があるということで、地上に向かっゼオンが持っていた岩が放たれる。
真っ直ぐ地上に向かって落下していく岩。
だが……不意に岩の数々が空中で動きを変える。
それは風で少しだけ落下方向が変わったというものではなく、露骨なまでに落下方向が変わったのだ。
そして落下方向が変わった岩は、誰もいない場所に向かって落ちていく。
結果として、落とされた岩は前回と違って一人も殺すような、もしくは一台の馬車を壊すようなこともなく、地面に落下する。
「うわぁ」
その光景に、一言呟くアラン。
そこまでショックを受けた様子がないのは、やはりこれが二度目だからということもあり、向こうにも十分対策を練る時間があったということなのだろう。
(でも、ああやって人のいない場所に岩を落とせるのなら、別に兵士たちが広がる必要もなかったような……あ、いや。違うな。多分あれはもし岩を逸らすのが失敗したときに、被害を出来るだけ少なくするためだ。それと同時に、岩が落ちてきたときに回避しやすいように)
言うまでもなく、岩が密集していた場合は回避するのが難しくなる。
回避しようにも、人が大勢集まっているので動けず、結果として岩に押し潰される者が出て来るといった具合に。
だからこそ、ゼオンの姿を見た瞬間にこうして広がったのだろう。
そのことに納得しながら、アランはどうしたものかと迷う。
この状況でこうして暢気に迷っていられるのは、ゼオンが敵の攻撃の届かない高度数キロといった場所にいるからだ。
「厄介だな。非常に厄介だ。……こうなると、向こうがラリアントに来るまでは襲撃も難しくなるな」
元々敵の進軍速度を少しでも遅くし、王都からの援軍が到着するまでの時間を稼ぐという意味で、上空からの奇襲を行っていた。
だが、こうも素早く対応をされるというのは、アランにとっても予想外でしかない。
この状況で今までと同じように敵を攻撃したとしても、それはまた今と同じように防がれるだけだろう。
アランが口にしたように、厄介……本当に厄介という言葉でしか、現状をい言い現すことは出来なかった。
ともあれ、今の状況ではここにこれ以上いても意味はないと判断し、アランは最後に地上にいるガリンダミア帝国軍を一瞥するとラリアントに戻るのだった。
「そう、か。……向こうもやられっぱなしという訳にはいかないか」
アランの説明を聞き、モリクは苦々しげに呟く。
今の状況は予想されていたことではあるが、それでも面白いはずがない。
出来ればアランの攻撃でもっとガリンダミア帝国軍の数を減らし、士気を下げたかったというのが、モリクにとって正直な気持ちだろう。
だが、今の話を聞く限りではそれもこれ以上は期待出来そうにない。
それどころか、現状はラリアントの切り札とも言えるゼオンの攻撃を、こうも次々と防がれるということは、ガリンダミア帝国軍の士気を上げることにすらなっている可能性があった。
こうなると、上空から岩を落とすといった攻撃は効果が期待出来なくなる。
「別の攻撃手段を……と言っても難しいか」
「そうなりますね」
岩を落とす以外の別の攻撃方法……それもガリンダミア帝国軍が対処出来ないような攻撃方法も、考えれば見つかるだろう。
だが、今の状況ではその考える時間が勿体ないのだ。
そうして考えている間にもガリンダミア帝国軍はラリアントに向かってくるのだから。
「……分かった。なら、ガリンダミア帝国軍に対する攻撃は止める。アランはゼオンを使ってラリアントの防衛力の強化に協力してくれ。ただ、偵察を頼む可能性はある」
敵を攻撃は出来なくても、偵察をすることが出来る。
絶対に安全で敵を偵察出来るというのは、今のラリアントにとっても非常に助かることだ。
むしろ、これだけでもアランの協力は大きな意味を持つと言えた。
「はい。いつでも偵察に出ますので」
そう言い、アランは執務室を出る。
本来ならもっと色々と話した方がいいのかもしれないが、モリクにとって今はやるべきことが多数ある。
あまり今の状況で時間を取らせたくなかったのだ。
そうして執務室から出たアランは、外に出てラリアントの防御力を少しでも高めるために協力しようとしていのだが……
「おい!」
明らかに敵意を持った声で、そう怒鳴られる。
そんな声に嫌な予感を抱きながらも、アランは振り向く。
すると予想通り、視線の先にいたのは見覚えのある人物だった
それは、ゼオンによる襲撃には自分たちも連れていけと、そう頼んで……いや、命令してきた心核使いの面々。
心核使いにたちにしてみれば、アランだけにガリンダミア帝国軍を倒したという手柄を渡すのが面白くなかったのだろう。
今まで心核使いとして、誰からも大事にされてきた者たちだからこそ、自分たちよりも活躍しているアランの存在が許せなかった。
心核使いとして、一定以上の強さを持っているというのも、この場合は関係していのだろう。
「何ですか? これから工事の手伝いをしにいかないといけないので、忙しいですけど」
「ガリンダミア帝国軍に対する攻撃はどうした? 何故こんなに早く帰ってきている?」
「向こうに対策を取られて、効果が望めないとモリク様が判断したので、その辺は中止になりました」
「はぁ? 本気か? ……いやまぁ、お前のゴーレムならそうかもしれないな。なら、俺たちを連れていけ」
自信満々に命令する男。
その周囲にいる者たちも、男の言葉に同意するように言葉を続ける。
「そうだ。俺たちならお前のような馬鹿な真似はしない。しっかりと相手に被害を与えることが出来るからな」
「いや、それは難しいと思いますよ? 向こうにも心核使いが十人以上いましたし」
十人以上の心核使い。
そう聞かされた男たちは、一瞬怯む。
だが、ここで怯んだままでは意味ないと知り、威勢よく叫ぶ。
「それがどうした! 俺たちがいれば、その程度の心核使いはどうとでもなる!」
それが本気で言ってるのか、もしくは強がりで言ってるのか、アランには分からない。
分からないが……それでも、今の状況ではとてもではないが男の言葉に頷く訳にいかないのも事実だった。
「なら、もう少しすればガリンダミア帝国軍がラリアントに到着するので、そのときに頑張って下さい。そのときに頑張れば、多くの者が皆さんの活躍を見ることが出来ると思いますよ」
その言葉に男たちは何かを言おうとするも、アランはそれを無視してその場を立ち去る。
そして、数日後……やがて、ガリンダミア帝国軍はラリアントの前に到着するのだった。




