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第二十五話 テヘペロは詐欺だと思う


鬼の副長を保っているつもりなのだろうが、若干顔を赤らめ早足で廊下を歩く歳さんの後をついていく。

どうやらその足は道場へと向かっているらしい。


てっきり…

あのまま抱かれるもんだと思ってた。

私の方はいつでも抱かれる準備はできてるのになぁ…

ちなみに、あれから歳さんには抱かれていない。


…しかし歳さん、ヤリチンだけあってさすが上手い。

女が悦ぶツボをわかってるよね、そんなこと考えてると身体が自然と疼いちゃうよね、なんて卑猥な事を考えてる私の前で、歳さんがボソリと呟いた。


「今度から他の男と二人きりで呑むんじゃねぇぞ」


その声はいつもの自信満々の声ではなく、本当に小さな声で。

わざと「え?なんか言いました?」と聞けば「なんでもねぇっ////!」と、あきらかに照れ隠しの声が返ってきたのだった。


なんだなんだ…

本当に素直じゃないよね歳さんは。

なんて上から目線で思いながらも、妬いてくれて嬉しい、なんて思う自分が心の大半をしめていた。


本当に本当に私の事、好きでいてくれるって思っちゃっていいのかな…

自惚れじゃないよね?

てかこんな希代のイケメン、私なんかがいただいてしまっていいのだろうか?

いや、すでにいただいちゃったんだけれども。

もしかして、私はこの人と結ばれるためにタイムスリップなんぞを経験しちゃったのかしら…?なんて、だんだんと想像力のスケールが広がってきちゃってキリがない。

そう思ったところで、前を歩いていた歳さんが道場の前で足を止めた。

道場の中からは「おりゃー!!」だの「うおりゃー!!」だのとにかく男らしい野太い声。


「…新八のやつ……また派手にやってるな」


歳さんは呆れたように。

しかし心底楽しそうに道場の入口を開けたのだった。



道場に入ると、案の定、力強く竹刀を振り回す新八さんの姿。

と、その竹刀の矛先にいる面をつけた男。

それに見慣れない顔の男が3人。

そして近藤さんをはじめ、総司くんやら平助くんやらはじめくんやら、ギャラリーの姿が見えた。


「ほら!どうした!もう終わりか!?」


道場の中には意気揚々とした新八さんの声が響き渡っている。


…うん。

素人の私が見てもわかる。相手の人、弱い。

いや、新八さんが強すぎるのかな。

とにかく勝負の結末は見え透いている。


「弱ぇな…」


歳さんの表情がガラリと険しいものに変わった。


「あれ。意外に早いお着きでしたね」


そこへ総司くんが意味深な笑顔を浮かべてやってきた。

もう騙されない。この笑顔は無垢でもピュアでもなんでもないんだから。


「もっと時間がかかると思ってましたけど…フフッ」

「馬鹿かてめぇは」


下ネタ混じりの冗談を、歳さんは一蹴する。

すると総司くんは舌をペロッとだしながら私の方を見て肩をすくめた。

…かわいいじゃねぇか、馬鹿野郎////


「鬼の副長の時は冗談も通じないんですね~…あ、いつもか。こりゃあ由香さんも苦労するなぁ」

「んなことより、今新八が相手してる奴の名はなんてぇんだ?」

「あの方は御倉伊勢武さん。"一応"京浪士の方です」

「へぇ…」


二人が会話を交わすそのずっと向こうに。

スッと身を隠したように手合わせを見つめている知った顔が目に入った。


あ、あれは…


私はその影の方に足を向けた。


「楠くん!」


背後から私がそう声をかけると、その影は驚いたようにビクリと身体を震わせた。


「あ…!由香、さん!」


でも、驚いた次の瞬間。

私の姿に気付くと、あの天使のようなほんわかした微笑みが向けられた。

うんうん。

本当の無垢な笑顔っていうのはこういうことを言うのよ!

私、もう騙されないんだから!


「今日は非番?」

「はい。新しい隊士の方々が入られたんですね。永倉さんと手合わせしてると聞いたので見に来ました。しかし永倉さんはお強いですねぇ」


僕なんてとても敵わないや、と苦笑いする楠くん。

その顔は思わず見とれてしまうほどかわいい。

敵わなくて大丈夫!むしろお姉さんが守ってあげる!!

なんて言葉が口から滑りそうだ。


ついその笑顔に見いっていると、楠くんは不思議そうに首を傾げた。

ありゃ、ヤバイ。このままだと変態姉さんだ。

私はヘラリと笑うと、話題を変えようと慌てて口を開いた。


「ど、どうやらさ、ここだけの話…新しく入隊した人達は長州天誅組だったらしいよ?」

「長州天誅組!そうなんですか!」


…ん?あれ?なんか反応が…


「もしかして知ってた?」

「え…!?いえ!!」

「本当驚いてる?」

「は、はい!知りませんでしたよ」


なんだか楠くんの態度がおかしいように見えたんだけど…

まぁ、知っていようが知っていまいが、そんなたいしたことないよね。


私は「そっか」と言ってニッコリと笑ったのだった。



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