水族館
睦瑞希は既に待ち合わせ場所の駅前に来ていた。
土曜日の朝。9時の約束なのに、今は8時半前だった。
瑞希が約束より大分前に来ることは予測していた。だから早く来たのだが……。
彼女は黒のコルセットスカートに半袖の白のブラウス。黒のソフトハットに黒のローファー。ポシエットも黒。
名一杯大人びたコーデ。
これも予想していたので、黒のスラックスに白の半袖カッターシャツ。前に買ったイルカ柄のネクタイをしてきた。
「おはよう、瑞希」
彼女はいつものように抱きついては来なかった。
「おはよう、洋介」そう言って微笑む。
「早く来るなと言ったよね」
「洋介も早く来てる」
苦笑してしまう。
「今度から家まで迎えに行くよ」
左腕を差し出す。彼女は右腕を絡めてきた。
「今日はオシャレだね」
「洋介も」
「大学生のカップルぐらいには見えるかな?」
「見えるかな?」瑞希は嬉しそうに笑った。
まあ、ムリだろ。
俺はともかく、瑞希は小学生には見られない程度だ。
今日は彼女を水族館に誘った。
デートらしいデートは初めてだ。
いつもは公園とかで親戚の子供を遊んであげる状態だから。
電車で移動する。
水族館の薄暗いエントランス。巨大な水槽に出迎えられた。
壁一面のガラスの水槽の中を多種の水棲生物が回遊している。
何度も来ているがいつもこの場所から離れられなくなる。
「……キレイ……」瑞希が水槽を見たまま呟く。
「そうだね」
薄明かりの中を泳ぐ魚は幻想的であった。まるで海の中にいるかのようで。
ずっと見ている。
瑞希も俺と腕を組んだまま、水槽を見ている。
結構な時間見ていた。
「そろそろ、次に行く?」瑞希は飽きてないだろうかと思い、次の水槽に移動するか尋ねた。目は水槽から外さなかった。
「ううん。まだ見てる」瑞希は水槽から目を離さずに答えた。
「……」
「……」
「次行く?」
「洋介が飽きたら次行く」
「俺、なかなか飽きないよ?」
「じゃあ、ずっと見てる」
二人とも水槽から目を離さない。
「……」
「……」
「ウミガメ……」彼女はウミガメが気に入ったようだ。
「ウミガメだね……」
「……」
「……」
「洋介、大好き」
「大好きだよ、瑞希」
「洋介、愛してる」
「愛してるよ、瑞希」
俺たちは水槽から目を離さない。
館内アナウンスが、アシカショーの開催を告げた。
「アシカショーだって」
「アシカショーか……」彼女は水槽を見ている。
「……」
「……」
「……アシカショー見に行く!」瑞希は俺を見て、ニカッと笑った。
「行こうか」俺も瑞希を見て笑った。




