敵討ち
「いきなりとはヒドイな」
従兄弟の高坂一成は少しだけ傷ついたように言った。
睦瑞希の霊力で作られた光の槍を受けての、第一声だった。生きている人の魂でも祓ってしまと思うほどの光だったのだが、ものともしていない。
一成は瑞希の霊力を無効にしたのだろう。俺たち一族には霊障への耐性がある。
瑞希はすぐに対応する。霊力を直接ぶつけて魂を壊せないなら、精霊に働きかけて肉体を壊せばいい。そう結論付けた。
一成の足元のアスファルトがはがれた。
一成が跳びすさる。同時に精霊を止める。
瑞希はブロック塀を壊しブロックの破片を飛ばした。連続して二つ。
前回のような小さな石ではない。いや、前回のような小石でも頭に当たれば死ぬこともある。
しかし、今回は確実に殺しにかかっていた。
「瑞希! よせ!」俺は瑞希を引き寄せる。
一成は精霊に干渉してブロックの軌道を変える。そして身軽に避けた。
瑞希を彼女の両手ごと抱き締める。瑞希を持ち上げて、一成に背を向けた。
俺が間に入ることで、一成と瑞希はお互いを見えなくした。
「離して! 洋介! あいつ殺すの!」瑞希が足をバタバタさせて暴れる。両手は抱き締められていて動かせない。
「瑞希、やめろ。あの人は敵じゃない!」
「あいつが、ご主人様を殺した!」
ここで前世を持ち出すか。
「んー、君の主人を殺したのは僕の前世で、僕じゃないよ?」一成が言葉は穏やかだかキツい口調でとがめる。
「知らないもん! お前を殺すの!」
瑞希の霊力が強くなる。俺はそれを押さえる。悪霊の方がよっぽどかわいいくらいの呪詛だ。
「えー、理不尽だなー。僕は今回、生まれ変わってから一人も殺してないよ?」
「ご主人様を殺した!」
「千年も前の事を言われてもね。そういう時代でしよ? 今さら罪を問われても困るな」
「千年たっても恨みは消えない! おまえの罪をつぐなえ!」
「君だって何人も殺しただろ? 自分の事を棚にあげて、僕だけ罪をつぐなえって、お前が言うな、だよ?」
「私は……、私は……」瑞希の言葉が弱くなる。嗚咽が混じる。
「うん、今世の君は人を殺していない。昔に人を殺したことを責める気はない」一成は口調を穏やかに言った。
「だから、僕も責められるいわれはないよ」
瑞希はこらえきれなくなって、子供のように声をあげて泣き出した。
俺は拘束するように抱きしめていた手を、一旦緩める。左腕を瑞希のおしりの下にしてイスに座るように持ち上げる。右手を脇の下から回して、背中を抱きしめる。手のひらで瑞希の背中をポンポンとした。
瑞希は俺の首筋に両腕を回して、泣き続けた。
いつの間にか玄関に両親と祐実がやって来ていた。あれだけ派手にやったら気付くのは当たり前か。
瑞希は一成を殺せなかった。
過去に行われた敵討ちのほとんどは失敗しているらしい。
そういうものだ。




