私の物
騒動の次の日に、現場である島崎靖司の家を訪ねることにした。
やっと名前がわかった。情報が遅すぎだろ。
俺の高校の正門に中学生3人が待っていた。
妹の祐実とその友人の島崎桜。来なくてもいいのに睦瑞希も来ていた。
瑞希が駆け寄ってきて、無言で抱きつく。
抱きついたまま何も喋らない。昨日の事が尾を引いているようだ。
「瑞希、大丈夫だよ」俺は両手で優しく彼女の頭を体から離す。そしてケガをした右手を軽く回して見せた。
「ほらね」
痛い……。我慢する。
「洋介、ごめん。ごめんね」
「ああ」俺は彼女に微笑む。
彼女は力なく微笑み返す。
いや、そんな事より離れろ。下校する生徒たちにむっちゃ見られてる。
「瑞希、こんなとこで、甘えるな。お兄さんが困ってるだろ」瑞希の後ろから桜が言った。
桜は俺の事を、お兄さんと呼ぶことにしたらしい。友達のお兄さんだからか。
桜の横で祐実が不機嫌な顔で俺たちを見ていた。
歩いて桜の叔父さんの家に向かう。
瑞希は俺の左手に両手でしがみついている。歩きにくい。
祐実は俺たちを視界に入れないかのように、そっぽを向いている。
やりにくいな。
唯一まともに会話ができるのは桜だけだった。
桜に叔父さんの事を訊きながら道中をすごす。
桜の叔父さん、島崎靖司は去年妻をなくした。子供はいない。今は独り暮らしだ。
「叔父さんに取り憑いていた霊って……」
「見えたの?」
「お兄さんが刀を出したときに……」
「……」
「叔母さんだった」
まあ、俺は祓ったときにわかったけどね。
「何か叔母さんらしくないっていうか……、叔母さんが叔父さんに取り憑くなんて信じられないって言うか……」
「叔母さんはどんな人だったの?」
「ん……、明るくって、さばさば系? 未練を残すような人には見えなかったかな……」
「外から見た性格が、本当のその人の性格とは違ったりするけどね」
「そうですね……」
そもそも前提が違う。未練があるから取り憑いたとも限らない。取り憑いていたと言えるのかどうかも怪しい。
俺は思考に囚われて黙ってしまった。
しばらく無言で歩く。
祐実も瑞希も何も喋らない。
沈黙に耐えられなかったのか、桜が違う話題をふってきた。
「お兄さんってすごいんですね」
「え? 俺? 何が?」
「昨日は凄かったですよ。強えーなーって……」
「どこが? 瑠璃に負けてたよね?」
あの戦いのどこをもって強いと評価するのか?
「あ、瑠璃って、あのとき俺がやられてた人な」
「知ってます。中学のとき、お兄さんといつも一緒にいたのを見かけましたから」
「あいつ、強いよな」
「強すぎますね」
「で? 俺のどこにすごい要素が?」
「勝てない相手に引かないところ」
吹き出してしまった。「君、すごいな」
「は? お兄さんの方がすごいですよ」
「いや、昨日も、祐実や瑞希が動けないときに、君だけが冷静だったし」
「冷静じゃないですよ。現実離れし過ぎて驚き損なっただけです」
「そうか」俺は笑う。
桜も笑い返してきた。
「桜」祐実が口を挟んでくる。
ん?
「手を出すなよ」祐実が桜をにらむ。
「出してねーだろ」
瑞希も桜をにらむ。
「これ、私のだから」
物扱いすんなよ。




