ごめんなさい
睦瑞希の霊力がここまでとは思ってなかった。
これは三塚瑠璃に取り憑いた霊を、魂ごと消し去るってレベルではない。瑠璃の精神ごと消し飛ばす気か?!
瑠璃に取り憑いている霊にも、瑞希のヤバさがわかったようだ。俺の上から逃げようとする。
「瑞希!」俺は叫んだ。
瑞希は霊力を直接ぶつけることはしなかった。俺が霊を消滅させる事、失うことを良しとしないのを理解していたようだ。
代わりに瑞希は、精霊に干渉した。物理的に瑠璃を俺から離そうとした。
干渉したのは、花壇を囲む庭石だった。玄関先を飾る花壇の石。拳よりは大きめの石が並べてある。その一つが瑠璃に向かって飛ぶ。瑠璃の頭部を狙って。
霊を失わないとは言ったが、憑かれている人の安全は無視するとは言ってないぞ!
俺はつかまれている右手を引く。重心の移動に合わせて上体を起こす。
石を飛ばした瑞希の霊力に干渉し、霧散させる。だが、石を飛ばしている慣性はそのままだ。精霊に干渉し石の軌道を変えようとする。
間に合わない。
瑠璃をかばうように抱き締める。
右肩に激痛が走った。
「兄さん!」
「洋介!」
祐実と瑞希の叫び声が聞こえる。
痛みのある右手を動かし、抱き締めている瑠璃の背中に御札を貼った。
胡座をかいて座る。膝枕にして意識の無い瑠璃を寝かす。右手は痛くて使えない。左手でカバンから短刀を取り出す。片手では抜けないな。
「祐実」
俺の側で呆然と突っ立ったている祐実に声をかける。
その横に瑞希が泣きそうな顔で立っていた。
二人とも俺の邪魔をしないという分別は残っているようだ。
俺は刀の柄を左手で持って、竿を祐実に差し出す。
祐実は何をするのか理解して竿をつかむみ、逆から鯉口を切った。
抜いた短刀で霊を払う。刀を逆手に持ち直し祐実に差し出す。
祐実は刀を受け取って鞘に納めた。そして瑞希に振り返る。
「何をしたかわかってんのか! 何をしようとしたんだ、お前は!」祐実は怒りに任せて怒鳴り付けた。
瑞希が怯えた顔をしてビクッとする。怒鳴られる前から、既に泣きそうな顔をしていた。
「祐実! 黙れ!」俺も感情を押さえられずに叫んだ。
祐実が驚いたような、傷ついたような顔で俺を見る。
祐実は置いておく。瑞希を見る。
瑞希は泣きそうな、怯えた顔で俺を見ている。
「瑞希、大丈夫だから」痛みを我慢して、できるでけなんともないようなフリをして笑いかける。
「洋介!」瑞希の顔が崩れる。涙を溢れさせて俺に飛び付いてきた。
痛い痛い! ケガしてるのわかるだろ!
瑞希は座っている俺に、覆い被さるように首筋にしがみつく。
「ごめんなさい、洋介!」
そして小さな子供のように泣き叫んだ。




