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桜の叔父さん

 高坂祐実は既にこれは手に負えない、と感じていた。


 友人の島崎桜に連れられてきた家の前。

 桜は霊感がないから、平然とした顔をしている。

 兄の彼女の睦瑞希は不機嫌そうに黙っている。


「やあ、皆さん、いらっしゃい」家の主人、桜の叔父の島崎靖司が玄関を開けた。


 大きな日本家屋だった。靖司はこの広い家に一人で住んでいるらしい。去年奥さんを病気で無くし、子供はいなかった。できなかったから。

 ここまでの基本情報は桜から来る途中に聞いていた。


 広い和室に通される。床の間のある部屋だった。

 障子が開けられていて、廊下の向こうに引き違い窓があり、こじんまりと手入れされた庭が見えた。


 ローテーブルの上座側に桜、祐実、瑞希の順に座った。

「お前、正座の姿勢良いよな」桜が祐実に言う。見た目治安悪い系なのに、と言いたいらしい。

 祐実は無言で聞き流す。それどころではなかった。


 靖司が細長く大きな木箱を持ってきた。

 テーブルに置いて、反対側に一人で座る。

 箱を開けると、白鞘の大小が入っていた。

 日本刀だ。


 桜が祐実たちを連れてきた口実は、日本刀を見たいから、だった。

 靖司は長く居合をしていて、何本かの日本刀を所有していた。


「何か女の子のあいだで、日本刀が流行ってるらしいね」

「歴女とか刀剣女子とか言うらしいよ」

 靖司と桜の、叔父姪が仲良く話をしている。この二人の関係は良好のようだ。


「お嬢さんたちは日本刀を見るのは始めてかい?」

「いえ、家にもあります」祐実は答える。

「あるのか?」桜が驚く。

 瑞希も少し驚いたように祐実を見る。

 お前、見たことあるだろ。

 岸田に憑いていた霊を祓ったときだ。

 瑞希は覚えていないらしい。


「現代刀?」

「古刀だと思います」

 平安末期の刀。徐霊を目的に作られた。本家の神社の宝物の一振を、洋介が持ってきた。洋介は本来の目的通りに扱えるから。


「お父さんが手入れしてるの?」

「いえ、兄が手入れしてます」

 瑞希が反応した。

「手入れのしかた、教えて欲しいです」

「お嬢さんも、持ってるの?」

「いえ」

「欲しいの?」

「いえ。手入れのしかたを覚えたいだけです」

 祐実が瑞希をにらむ。瑞希は祐実を見ない。

「道具を取ってくるから、待ってて」靖司は部屋から出ていく。

「刀持ってないなら、手入れ覚えても仕方ないだろ」祐実が不機嫌に言う。

「洋介の役に立つ」瑞希が祐実を見ずに言った。


「なあ、お前ら目的忘れてないか? 刀は口実だろ」


「覚えてます。さっきから、パチパチうるさいです」

「ん? ああ、家鳴りな。古い家だからな」

 家に来てからパチッ、パチッとうるさい音が聞こえていた。靖司も桜も気にしていない。


 祐実はわからないのは幸せだなと思った。

「こんなに悪意のあるラップ音は始めてだよ」



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