好きな人がいるから
放課後の教室。
島崎桜は、イスに座っている友人の高坂祐実を後ろから抱きしめて、ほっぺをウニウニして遊んでいた。
「祐実はさー。もてるんだから、彼氏作れよ」兄の彼女に嫉妬しているよりよっぽど良い。
「桜こそ作れば?」
「弱い男は要らないな」
「なんだよそれ」
ケンカだけが強ければ良いってもんじゃないけどな。
「お前、こないだもコクられてたよな? 断ったのか?」
「断った」
「何て言って断ったんだ?」
「いつもどおりだよ」祐実はめんどくさそうに答える。
祐実の断る台詞は知っている。「好きな人がいるから」だ。
祐実はちゃんとした告白には、ちゃんと返事している。そして断ったあとはしばらく少し元気がない。
好きな人って誰だよ。と訊いたことがあるが教えてくれなかった。いつも強気な祐実が好きな人には何も言えないところとか、可愛らしいとこもあるなと思ったが、今はそう思ったことは間違いだとわかっている。
好きだと、自分の気持ちを伝えてはいけない相手なのだろう。
しばらく祐実のほっぺで遊んでいたら、急に祐実がビクッとする。
「どうした?」桜は祐実から手を離す。
祐実は立ち上がると、周りをキョロキョロしだす。そして窓際に駆け寄った。
桜も祐実を追う。
窓から外を見た祐実が「瑞希、何やってんだ」と呟いた。
桜も窓から外を見る。校庭にはクラブ活動中の生徒や帰宅しようとしている生徒がいた。瑞希がどこにいるのかわからなかった。
祐実は教室から走って出る。
「おい、待てよ!」桜も祐実を追いかける。
一体どうしたんだ、祐実は?
祐実は一階まで降りると、上履きのまま外に出て非常階段に向かう。
非常階段の上の方から声が聞こえる。
「高坂や島崎と仲いいからって、調子にのってんじゃないよ!」
「お前まで強くなったつもりか?!」
複数の声。威圧するようにドスが効いている。
私や祐実がどうかしたか?
階段を駆け登って踊り場を曲がる。
もう一段上の踊り場に人がいた。
祐実が立ち止まる。その横に桜も並んで立ち止まる。
睦瑞希がいた。
瑞希の友達の早瀬美羽もいる。
そして見たことのある3年の女子生徒が4人。
瑞希は美羽をかばうように前に出ている。その後ろで美羽は泣いていた。
3年生は瑞希を囲んでいる。正面の3年生が瑞希の髪の毛をつかんでいた。
瑞希は髪の毛をつかまれたまま、つかんでいる3年生をにらんでいる。殴られたのか頬が赤い。
「おい、お前らなにやってる」桜が声をかける。
何をやっているかは見たらわかる。3年生はみんな桜や祐実と仲の悪いグループだ。
こいつらには桜の友達の瑞希が、桜の子分かなんかに見えたのだろう。桜や祐実には怖くて手が出せないから、弱そうな子分に当たっているのか。実際は祐実と瑞希は仲が悪いが、外から見ていたらわからないだろう。
瑞希は悪目立ちしすぎていた。
桜と祐実の取り巻きを減らそうという遠回りな嫌がらせだ。
これって私のとばっちりか?




