公園
妹の祐実は右足で俺の左足を蹴りに来る。
俺は左膝を上げてガード。爪先を伸ばすことで強度を増し、ヒットの瞬間にわずかに左に旋回させることで蹴った彼女のバランスを崩しに行く。
彼女は押し返されるの逆らわず、体幹のバランスをそのままに蹴った右足を外に開き、さらに高度を上げる。軸となった左足の爪先を左に開けるのと同時に腰を捻って側頭部を蹴りに来る。
ローをフェイントにしたハイキックだった。
俺は左腕でガードする。左肘曲げ肘を真上に向け腕全体を頭につけて衝撃を分散する。そのままに左足を送りこみ、彼女の右足に沿わせて肘を打ち下ろし顔面へ。
彼女の右手は蹴りのバランスをとるため体の後ろに振っていたため戻れない。左頬につけていた左手を顔面に回して、肘をガード。
俺は着地させた左足の踵を外側に踏み出すと同時に体を沈みこます。
蹴った右足を戻す前に肘を押し込まれた祐実は、バランスを崩して倒れそうになる。
俺はすかさず左足爪先を開き、右足を前に進め、同時に送り出した右手の手のひらで彼女の胸を打つ。
彼女は仰向けに芝生の上に転がった。胸は俺の右手で抑えられて動けない。
「大丈夫か?」俺は手を差し出す。
彼女は俺の手をとって立ち上がる。
「大丈夫」
日曜日の朝。俺達兄妹は芝生の敷かれた大きな運動公園で練習をしていた。
普段からトレーニングはしている。対人練習もしている。
だが、この間の悪霊にとり憑かれた三塚瑠璃には手も足もでなかった。
あれから練習を増やしている。
「なあ、兄さん。ちゃんとしたとこで習った方がよくないか? 私とやっていないで」そして少しの間を置いてから、「私じゃ兄さんの相手にならない。右手を使わないハンデでも勝てない」と言った。
右手を使わないのはハンデではない。お札を右手に持っているという想定で、最後に右手で頭か胸を掌で打つ練習をしているだけだ。
「んー、そんな本格的にやらなくてもいいかな。そもそもあんな失態は、次ぎはしない」今までは、力業になる前にけりをつけてきた。
「せめて瑠璃姉に相手してもらったら?」
「瑠璃は強すぎるからな」
それ以前に、今は話をする事すら気まずい。
「子供の頃、瑠璃姉に勝てなかったからか? 女に負けてプライド折られたか? 小さいな、兄さん」
「そんなプライド始めっからないよ」
確かに瑠璃に勝てなくなったのが、剣道を辞めた理由ではあるが。
勝てない相手、瑠璃が女であることは理由じゃない。
そもそも俺は格闘技に向いてない。
何でこんなに気が弱いんだろうな……。




