毒
「見えますよ」
睦瑞希の返事に高坂祐実は痛みを感じた。彼女は嘘つき呼ばわりされてなお顔を上げる。
瑞希の友人の早瀬美羽が心配そうに瑞希を見る。良い友達だ。
尋ねた島崎桜本人は楽しそうな顔をしている。
桜は何故訊いたんだ?
桜に霊関係のトラブルはない。悪い霊に憑かれている気配もないし、守護霊も穏やかだ。
「すごいなお前。嘘つき瑞希の名が怖くないんだ?」桜の言葉は、そのままの意味に聞こえた。特に揶揄している風には聞こえない。
「私は、私が嘘つきでないことを知っている」
桜はその返事に、楽しそうに笑う。
「お前、気に入ったわ」
「気に入られる必要はないです」
「悪い。上から目線だな。言いかえる。お前と話すのは楽しそうだから友達にならないか?」
これは驚いた。
言われた瑞希も目をパチパチさせている。
美羽も驚いている。
「お前、そんなキャラだったか?」祐実はつい突っ込んでしまった。
「気の強いやつは好きだ」
「そうか、じゃあ私の事は嫌いだな?」
「何言ってんだか」
瑞希が不審な目で祐実を見てくる。
祐実は誰かに強いと言ってもらわなければ不安だった。
私は逃げたのに、瑞希は逃げない。
兄の洋介が瑞希を選んだのはそこだったのだろうか?
「連絡先、交換しようぜ」桜がスマホを取り出す。
瑞希は淡々とそれを受け入れた。
それから桜は積極的に瑞希に話しかける。瑞希は少し困惑気味に会話をしていた。
祐実と美羽は少し手持ちぶさたになる。
「高坂さんは吉川さんと仲良いのですか?」そんな居心地の悪い時間を埋める程度のどうでも良いような話題を美羽は振った。
この間、祐実が吉川結衣を昼御飯に誘った事を言っているらしい。実際には誘わされただけだ。
祐実に暗い感情がさした。今日は瑞希に押されっぱなしだ。
「ああ、最近ネットでゲームやってる」
「高坂さん、ゲームするんですか。どんなのするんですか?」
「FPS、わかる?」
「わからないです」
「銃で打ち合うゲームかな。チームを組んでやるやつ」
「吉川さんとチーム組んでるんですか?」
「吉川と岸田と、あと兄貴とチームを組んでる」
祐実は美羽に向いて話しているが、聞かせたいのは瑞希だ。
瑞希がこっちを向いたのを感じる。
多分瑞希は知らない。
洋介は言っていない。特に言う必要を感じなかったのだろう。
洋介から見たらそうなる。
瑞希から見たら、彼氏が他の女と遊んでいてそれを隠しているように思えるだろう。
よりによってそれが、瑞希をいじめていた吉川結衣ならどう思うだろうか?
毒を仕込んだ。




