一口交換
友人の島崎桜は高坂祐実の後をつけてきたらしい。
「ブラコンのお前が、兄貴の彼女に何するかわかんねーから」と桜は言った。
失礼なやつだ。ちょっと嫌味でも言ってやろうと思っていただけだ。
「妹にアイスクリームを買ってあげただけ」と、睦瑞希は桜に説明した。
祐実が瑞希にアイスをたかっていたという誤解を解いてくれた。本当は誤解では無いのだけど。
「溶けちゃうから食べましょう」と瑞希は言って、溶けはじめたアイスの表面を舌でなめる。
祐実はこりずに瑞希に仕掛ける。
「姉さん、一口ちょうだい」
瑞希が、えっ? て顔をする。一瞬不安そうな顔をしてから、アイスを祐実の前に差し出した。
祐実は一口と言うよりは多い量をかじりとる。
瑞希が、ショックを受けた顔をする。そしてムッとした表情をしたが、すぐに隠して、
「お姉さんにも一口くれる?」と訊いてきた。
祐実がアイスを瑞希の目の前に差し出すと、瑞希はその小さな口を限界まで開けてかぶりついた。一口で半分以上持っていく。口から溢れそうなアイスをムリに口を閉じて食べようとした。
急に瑞希が顔をしかめ、アイスを持っていない方の手でこめかみを抑え、身もだえる。
きーん、としたらしい。
瑞希の友人の早瀬美羽がオロオロするが、どうしようもない。
祐実は身もだえる瑞希を見ながら、こんなのが洋介の彼女なのか? と思った。
桜が、「ガキじゃん」と呆れたように言った。
そうだな。
アイスを咀嚼した瑞希が、「頭、きーんとする。きーんとする」とまだ身もだえていた。
「祐実ちゃん、お姉さんに紹介してくれる?」と頭痛がおさまった瑞希が言った。
さっきまでガキみたいに騒いでいたのを無かったことにしている。
印象が定まらないやつだ。あと、「祐実ちゃん」と「お姉さん」を多用するのは、マウントとっているつもりか?
桜を紹介する。それから瑞希が友達の美羽を紹介する。
瑞希は桜には丁寧に挨拶した。
美羽もオドオドと緊張しながら挨拶する。桜は祐実以上に見た目が怖い。
なにも買わないのも何なので、桜もアイスを注文しに行った。そのときに、騒がしくしたことを店員に謝罪していた。
桜は席にもどっていきなり、
「有名人の瑞希に会えて嬉しいよ」とかました。
嘘つき瑞希の悪名は中学校で知らないやつはいなかった。
瑞希は顔色を変えることはしなかったが、返事もしなかった。
「なあ、お前、幽霊が見えるのか?」からかっている風には聞こえない。そもそも桜は後輩をいじるようなやつじゃない。
「見えますよ」今度は瑞希は平然と答えた。




