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瑞希と祐実

「祐実、機嫌悪いねー」楽しそうな声が聞こえたと思ったら、誰かが高坂祐実の背中から抱きついてきた。


 ホームルームが終わった中学3年生の教室。

 席に座ったままアンニュイになっていた祐実の背中に抱きついてきたのは、友人の島崎桜だった。

 外見はちょっと治安悪い系だが、中身は祐実と大差ない。中学生にしてはちょっと大人びた美人。つまり祐実と同じタイプ。悪ぶっているが、大して悪いことはできない。


「お兄さんか? ケンカでもしたか?」

「ケンカなんかするかよ、ガキじゃあるまいし」もちろん本当。兄の洋介は妹とケンカするほどガキじゃない。


「じゃあ、どした? 言ってごらん?」

「うっざ」

「言えよ、こら」右手で首筋に抱きついたまま、左手で頬をつねってくる。

「やめろ」

 手を振りほどく。

「兄貴に彼女ができただけだ」

「おー、祐実にとっては大事件だな」

 その通りだ。

「で、お兄さんの彼女を、お兄さんにばれないようにシメる算段か?」

「しねーし」

 ばれないわけがない。


「相手は高校生?」

「中学」

「うちの?」

「うちの」

「誰?」

「睦。睦瑞希」

 桜は少し考えてから、「嘘つき瑞希?」

「そうだよ」

「それはまた……」

 桜が腕を離したので、祐実は立ち上がる。

 桜は微妙な表情を浮かべていた。


 瑞希のせいで洋介の評判が下がる。


 昇降口から出ると、睦瑞希が見えた。何度か見かけた友達らしい女の子と二人で校門に向かって歩いている。

 祐実の心に暗い感情が刺した。


「悪い桜、用事ができた」そう言って桜から離れる。

「おい、なんだよそれ」桜の抗議が聞こえたが無視する。




「おい、睦」祐実は瑞希を呼び止める。

 瑞希は驚いた顔で祐実に振り返った。隣で瑞希の友達が怯えた顔で祐実を見ている。

 祐実は学校一の美少女と、怖い3年生の二つで知られていた。


「睦、ちょっといいか、つきあえ」祐実はいつもの調子で高圧的に命令する。なめられないように。


 瑞希の目に怒りの色が浮かぶ。しかしすぐに、落ち着かせるように息を吐き出し、微笑んだ顔を作った。

「なぁに? 祐実ちゃん」子供に話しかけるように優しく言った。目は笑っていない。


 祐実はやっと、相手が悪い事に気付いた。彼女は何かわからない力を持っていた。それより、彼女は兄の洋介の彼女だ。もめたりしたら洋介に怒られる。それは避けなければいけない。


「あ、……。姉さん、ちょっと話しでもしたいかなって……」

「うーん、お姉さんお友だちとお話ししてるんだけど、……一緒に来る?」

「あ、……うん」


 だいぶ印象が違うんだけど……。



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