瑞希と洋介
「ずっと一緒にいたい」
睦瑞希が言った。
「いや、夕食時までな。散歩でもする?」
やりたい事がないなら散歩くらいか。
城址公園が近くにあるので、その方向に向かう。
瑞希は腕にしがみついたまま、特に異存はないようだ。
「今日の事じゃなくて、明日も明後日もです」
「あー、暇なときなら遊んでやるよ」
「じゃあ明日も」
「明日?」そんな毎日暇じゃ……、暇だな。「明日なにするの?」
「洋介と一緒にいる」
「いや、それ困るな。睦さん、何かしたいことないの?」
「洋介と一緒にいたい」
「そうじゃなくて趣味とか」
瑞希は少し考えてから「ない」と言った。「洋介は?」
俺も少し考える。うん、俺もないわ。
「ゲームとか読書とか?」これは趣味で良いのか?
「じゃあ一緒に本読む」
「一人でよくない?」
「洋介と一緒に本読む」
意味がわからない。
「いいよ」
「やったー! 明日は洋介と本読む」すごく嬉しそう。「洋介、大好き!」
「はいはい」
「洋介、大大大好き!」
「はいはい」
「洋介、大好き。私と付き合って!」
「はいはい」
瑞希は立ち止まったので、俺も止まる。彼女は手を離す。
彼女は嬉しそうな顔から、一転して真剣な表情になっていた。
「今のは恋人になって下さいという意味だったのですが、理解してもらってましたか?」
「してるよ」
彼女は意味がわからない、という表情で俺を見ている。
「俺が睦さんの事を好きかといわれると、好きじゃないな。でも、睦さんは今日は必死だったし。服を誉められただけで泣くぐらい」
彼女は黙って聞いている。
「こんな必死になられたんじゃ、断りづらいだろ」
彼女は驚いたように目を瞬く。
「洋介、お人好しすぎませんか?」
「妹によく怒られる」
彼女は面白そうに笑う。
「今日も妹さんに怒られてください」
城址公園の天守閣跡まで登った。
彼女は腕にしがみつくのをやめ、手を繋いでいた。
「中学校が見える!」
天守閣跡は結構高くて、街を見下ろせた。
彼女は知っている建物を探してはしゃいでいる。
「睦さんの家はどの辺かな?」
「えーと、あっちの方だけど、よくわかんない」
彼女は、何か気付いたように真顔で俺を見上げる。
「どうしたの?」
「……、今、子供扱いしませんでしたか?」
子供だろ。
「してないよ」
「むー、カップルらしくありません」
「今日から付き合いだしたばかりだからね」
ちょくちょく子供っぽくなるからだろ。
「名前」
「ん?」
「瑞希と呼んで」子供っぽく拗ねたような顔。
「いいよ、瑞希」
「ん。愛してる、洋介」大人の顔に見えた。
第一部終了です。
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