瑞希の食事
昼御飯時まであまりにも早すぎたので、とりあえず歩いていた。
俺が目当てにした店は、バスでも使うような距離だったが急ぐ必要もない。
睦瑞希は何の文句もないような幸せそうな顔をして、俺の右手にしがみついている。
たいした会話もしなかった。喋ればお互い不快になるような話題になるような気がした。
目当ての店に着いた。開店していたので昼食には早いが入ることにした。
当然のように客は俺たちだけだった。
窓際の4人テーブルに座る。
彼女は俺の腕を離さなかったので、並んで座ることになった。
俺は左手だけでメニューを開く。彼女の両手は俺にしがみつく事でふさがっていたので、手を出してこない。
「何にする?」
「ご主人様のおすすめは何?」
「この店ならスパゲッティかな。バジル系の」自然に会話が成立した。おい待て。「あと、ご主人様はやめろ」
「二皿違うの頼んで半分こしたい」
「いいよ」
バジルとトマトソースの二皿とサラダを注文する。
取り皿は3枚づつ出してくれた。
当たり障りのない、食べ物の話題で待ち時間を過ごす。
暇潰しにスマホでゲームでもしたい。この話題の無さ、いや、どの話題が地雷になるかわからなさが怖い。
先にサラダがでる。
彼女は腕を離さない。
さすがに左手だけで箸はもてない。
「睦さん、食べよう」
「はい」返事はするが、腕を離さない。
「手、離して」
しばらく待って、やっと彼女は名残惜しそうに手を離した。
俺は一礼し、あまり大きく音を立てないように一拍手して「いただきます」と言った。彼女も真似をして、「いただきます」をした。
食事が終わるとすぐに彼女は腕にしがみついてきた。
「混んでくる前にでようか」
彼女は手を離さない。
「ごちそうさま、が、できないから離して」片手では拍が打てない。
彼女は手を離す。
さすがにこの愛情表現はやりすぎだ。ちょっとイラつく。
何をそんなに怯えているのか。
会計する間も、腕に抱きつかれたままだった。右手の動かせる範囲が狭すぎてやりにくい。
店をでる。
「睦さん、なにかやりたいことある?」
「ずっとご主人様といたいです」
用事がすんだから帰ろう、が、できない。
ていうか、
「だから、ご主人様はやめろ」
「なんと呼べばいいの?」不満そうに訊いてくる。
「普通に名前で呼べばいいだろ」
瑞希は少し考える。
「洋介?」
「そうだよ」
「洋介」
「ああ」
「洋介」
「何?」
あれ? 呼び捨てか?
ま、いっか。
なんか嬉しそうだし。
「洋介。ずっと一緒にいたい」




