お弁当
「え? 結衣、岸田くんと付き合うことになったの?」
教室じゅうに声が響き渡る。
ホントこの子良い仕事するね。思った通りのリアクションに吉川結衣は満足した。
このクラスで一番目立つグループ、つまり岸田洋と吉川結衣の、クラスで一番のカッコいい男の子と一番可愛い女の子のいるグループ。
その中心で結衣は満足げに、ただし外目には恥ずかしがっているように微笑んだ。
もう一人の中心人物、岸田洋は昨日から学校を休んでいる。体調不良と言うことになっている。
このクラスで本当の事を知っているのは、結衣と睦瑞希の二人だけ。
結衣は横目で瑞希を見る。
瑞希はいつも一緒にいる友達と二人でいた。クラスで浮いている二人だ。悪目立ちでいえば、瑞希は結衣より目立っているかもしれない。
瑞希は不審な目で結衣を見ている。
結衣は優越感に満たされる。
結衣は、瑞希が洋の事を好きだと勘違いしたままだった。
「昨日お見舞いに行ったとき、思いきって告白したらOKだったの」本当は病気では無いが、見舞いであることは間違いないだろう。
実際には告白自体はその前にしている。返事をもらったのは昨日だと言うことだ。
「高坂さんが、試しに付き合ってみろと言ったから」と言う理由だった。何故か洋は高坂洋介の事を信頼している風に見えた。理由はなんでも良い。洋と付き合えるなら。洋介が言うのなら、悪いことにはならないような気がした。
「昨日はずっと洋とボイチャしてたの」本当はグループチャットだったが、それは言う必要はない。いま重要なのは、結衣が彼の事を「洋」と呼んだことだ。
仕込んであるのはこれだけじゃない。
昼休みになると、結衣の取り巻き達がお弁当を一緒に食べようと、集まってくる。
「ごめん。他の人と約束しちゃったの」結衣は手を合わせて、あざとく謝罪する。
高坂祐実は約束をしなかったが、来ることを確信していた。だって、洋介が認めたから。祐実は洋介の言うことに逆らわないことをわかっていた。
「結衣ちゃん、お客さん」クラスの子が来客を伝える。
思った通り祐実が来ていた。
これにもクラスのみんなが驚く。
学校で一番の美少女といつの間に、お弁当を一緒に食べる仲になったのか。
横目で瑞希を見ると、彼女も驚いた表情をしている。その顔には怒りも混ざっていることが見てとれた。
結衣は大満足だ。
結衣はお弁当を持って、ルンルンな足取りで祐実のところに行く。
「お待たせ、ユミ」
更に教室が凍りつく。祐実は美人であるけど、怖い系でも有名だ。その怖い先輩を呼び捨てにするなんて。
「バカかお前。プレイヤーネームをリアルで呼ぶな。ゲームとリアルの区別ぐらいつけろ」祐実は小声で怒る。
もちろん、結衣はゲームとリアルの区別ぐらいついている。
「すみません」結衣は表面だけ謝る。そして、なんと呼ぼうか悩んでしまった。
「では行きましょうか、妹さん」
何故か祐実にうんざりした顔をされた。




