タローとチィルールのひととき
貨物船が出港して三日が過ぎた。
船内の様子はあまりよくない。
貨物として乗り込んだ人々はコンテナが積み上げられた貨物室に押し込められている。
客としては扱われていない。
二、三十人くらいいるだろうか。
一応、少し開けたスペースに絨毯が敷かれ、大概の人はその上で寝たり座り込んだりしている。
だが人目を忍んでコンテナの隙間に隠れるようにしている人も何人もいた。素性を明らかにしたくない人もいるようだ。だから正確な人数は不明だ。
今は朝食込みの早めの昼食が終わってしばらくした時間帯。
いつもなら、そろそろである。
貨物室のドアが開き、数名の船員がやってくる。
「えー、皆様、本日も魔法動力が不調となりました。魔力をお持ちの女性は協力をお願いします」
毎日、同じ時刻に魔法動力が不調になり、代わりに女性達が魔力を発動機に送りエンジンをまわす。
そんな偶然があるわけないが、仕方ない。みんなコレも代金の内と割り切って手伝うしかない。
魔力を貯めた高価な魔蓄池を節約して、人力(魔力)で船を動かすなんて誰が思いついたのか、どの世界にもブラック経営者は存在するものだ。
「お前は、いーから!」
「なぜか?」
チィルールも他の女性達に混じって移動しようとしていたのだが、船員に阻止された。
「いーから! 座ってろ!」
「私も皆の役に立ちたいぞ」
「立たねーよ! お前がいたらエンジンが本当にぶっ壊れる! 大海のど真ん中で漂流なんてしてたまっか!」
船員、ポロッと大事なこと言っちゃった。まぁ、誰も気にしてないけど。
結局、チィルールはおいてけぼりで、タローの傍に戻ってきた。
「なぜか?」
ちょっと落ち込みのチィルール。
だが、タローはコトの顛末をリリィーンから聞いていたので納得している。
初日、チィルールは大ハリキリでエンジンルームに向かい、魔力を伝達装置に遠慮なくつぎ込んだ。
意外なバカ魔力持ちだった。
その魔力に反応したエンジンのタコメーターが一気にレッドゾーンを振り切り、エンジンは「ピーピー」と悲鳴(警告音)をあげて安全装置が作動、停止する。
そんな調子を数回繰り返し、とうとう安全装置がお亡くなりになった。
微妙な魔力制御ができないらしく、ゼロか百でしか発動できないようだった。まさにバカ魔力。
そんな状態で次にチィルールのバカ魔力を注入でもしたら、きっと貨物船はウィリーしながら数キロをもう加速で疾走したあげく大爆発するに違いない。そうなったら漂流を通り越して沈没の危機だ。
(お前と一緒だと普通の旅も生死を賭けた冒険になるのな)
苦笑いのタロー。
「んん? タロー、笑ったな!」
「いや、違う」
「私を無能だというか?」
「違うってば」
「じゃあなんで笑ったか?」
「ええ? これは、ほら、アレだ――嬉しかったんだよ」
「なにがだ?」
「お前と一緒にいられるからさ……ふふ」
「な、ああ……」
チィルール、顔真っ赤。ホッペがなんかプックリして見える。
「なーんて、嘘ですがー? あーはっはは」
「ぐ? ぬ?」
「あれェ? なんでお前、顔真っ赤なの?」
「う、うるさーい」
タロー、両手で顔を押さえ込んでクシャクシャな表情作って『ぷぷぷー』とチィルールをおちょくる。
「変な顔するなー」とチィルールはタローの顔を平手でペチペチ叩くのだった。
そして、そんな微笑ましいやり取りに視線を送る一人の人物がいた……
襟を立てた黒いトレンチコート姿の人物。今、ここに残っているということは男なのだろう。しかしゴーグルをした顔は立てた襟と合わさってその表情をうかがうことはできない。
「……」
その人物はすこし首をかしげる仕草をみせ、そのまま自身の姿をコンテナの隙間へと消していったのだった。




