キメラのキキト 前
シリアスです
「あの時は理想に夢見て、年甲斐もなく浮かれて、でもそのことを自分自身でも自覚してたけど、やっぱりうれしくってね」
トロイが語る昔話。
結果は現在において確定。
それは悲惨な結末。
でも知るしかない、語るしかない、未来の為に?
「当時、キメラを、その赤ん坊を殺さずに保護しようってだけでも革新的な出来事だったんだ」
語られるセイヤとギイさんは黙って聞くより他はない。
「忌み嫌われ、放棄され野獣として生きていくしかなかった『キメラ』を、愛情をもって正しい環境で育てる。そうすればきっと理解しあえるはずだと……」
二十年程度昔の話だった。
妖精族と獣人族との禁断の愛によって誕生したそのキメラ。
キキトと名付けられたキメラの女の子。
全身の所々に水晶みたいな結晶が埋め込まれている以外は見た目普通の獣人族の子に思えた。
醜悪なキメラの姿を覚悟していたが、見た目は普通っぽいのでボクも素直に愛情を注げられた。
その子は厳重な警備の施設の中で両親と共に研究員達に見守れながら暮らす。
キメラの成長速度はおそろしく速かった。生後半年ですでに十才程度の体格と三歳児程度の知能を持っていた。だがこれは野生生物としては普通程度かもしれない。
その頃から学習を始めることになった。少し尚早だが、キメラの本性が発現する前に矯正を早めに行なっておきたいとの研究員達の総意でもあったし、なによりキキト自身がなんにでも興味を持ち初めていたからだった。
「これはお魚」
「オナカナ」
「違う、お魚」
「チガカナ」
「う……」
「ン……」
写真を見せながら説明するが、やはりすんなりとはいかない。
「お水の中にいるんだ。そこで生活している」
「ズット・オフロ?」
「ふふ、そうだね」
ただ幼少世代な発想は愛らしかった。
「パパ・ママ・オナカナ」
「ああ、お魚だね」
「骨があるから、私が取り分けましょう」
食事で魚の塩焼きがでた。
母がキキトに箸でほぐした身を口に運んだ。
「オイシイ」
「よかった」
「さあさ、もっと」
いっぱい食べさせてもらって満足そうなキキトだった。
「オナカナ・スキ」
「そうかい。まだまだ、もっとおいしいものもあるからね」
「こっちのお肉とお野菜も食べましょうね」
普通に幸せな家族そのもので心配は何もなかった。
その頃にはもう研究員のみんなからも、警戒すべき研究対象というより普通にアイドルとして愛されていた。
そしてそれから半年後。
キキトは十八歳くらいの見た目になった。わずか一年で大人と区別がつかないまでに成長していた。
それにともない、身体の各部に散らばる結晶も大きくなって角のように突き出し始めていた。
「スキ・オナカナ・スキ・タベタイ」
でも知能はあまり変わりないようだった。
「はい、はい」
「オニク・スキ・タベタイ」
「キキト。お魚とお肉はどっちが好き?」
「オカシ」
「はは、なるほど」
少し我がままをいうようになったが、別段許容範囲内だし、逆に愛らしかった。
この子は未来への希望になる、皆がそう確信していた。
「キキトが一番好きなモノのはナニ?」
「?」
「キキトはいい子だからプレゼントしてあげるよ?」
「パパ・ママ・スキ・イチバン・ンフーぅ」
「そっか」
子供に質問して、大人が喜ぶ一番理想的な答えであった。
満面の笑みに包まれたその場。
そして悲劇は起こった。
その日の夕刻であった。
「スキ・スキ・パパ・スキ・スキ」
父親を引き裂き、八つ裂きにしたその肉片を貪り食うキキト。
「!!」
いつも通りのはずだった。
いつも通り、中庭で遊んだ後、父親に呼ばれて、手を引かれ、家に戻っていくキキト。
その様子を監視していた研究員達。
いつものように抱っこをせがむキキト。
受け入れる父。
でも大きくなった娘に少し照れている。
「スキ・スキ・パパ・スキ・スキ」
その言葉の後、惨劇は起こった。
「スキ・パパ・スキ・タベタイ」
キキトはパパを食べた。
「計画終了ーォっ!!」
ボクは唖然として身動きが出来なくなっていた職全員に号令した。
「これより! 第三計画作戦に移行! すみやかに移れー!! 繰り返す! 本計画は失敗! 職員はすみやかに最終行動作戦に移れー!!」
真っ青になった職員が動き始めた。
施設に警報が鳴り響く。
待機しているはずの軍戦闘隊に出動要請。
当初に予定されていた計画作戦が実行される。それは最終の手段。
愛に包まれていたはずの施設とアイドルは、いまや戦場と抹殺すべき対象になった。




