第95話 上から下への
『清滝宮』を上から下へ端から端までひっくり返して、行方不明の小鳥を探す大騒動が始まった。
「止めよ!何をするのじゃ!?」
思わずミマナ姫に掴みかかろうとするアーリヤカ皇太后の前に素知らぬ顔のギルガンドが立つ。
「き、貴様、無礼であろう……っ!」
一睨みでアーリヤカ皇太后を後ずさらせたギルガンドだったが、顔を改めるなり軍刀に手をやりながら、アーリヤカ皇太后の背後の扉を蹴った。
強靱な一撃にひとたまりもなく扉は破られて、その部屋にいた一人の男が窓から逃げようとしている後ろ姿を露わにした。
「逃げよ、アルドリック!」
その男が振り返ったのとギルガンドが抜刀して部屋に駆け込んだのと、アーリヤカ皇太后の絶叫が重なった。
「逃げるのじゃ!この男が『閃翔』ぞ!」
「母上、今度こそ失敗しない!絶対に殺してやるぜ!だって俺様は――」アルドリックは追い詰められてようやく覚悟を決めたのか、『神々の血雫』を取り出すと己の左腕にはめようとした。「誰よりも偉いんだ!誰よりも偉いから当然なんだよ!偉いって事は誰よりも勝っているって事なんだ!だから、だから俺様は……!」
「否」
ギルガンドはその時にはもう軍刀を鞘に仕舞っている。
「もはや貴様は地に堕ちたのだ」
その言葉が放たれたと共に、第二皇子の右手が握りしめていた『神々の血雫』ごとボトリと地面に落ちたのだった。




