第93話 女の闘い、女の友情
「あらレーシャナ、また話がずれてしまっているわ」
もう、とまるで可愛い妹をたしなめるようにミマナ姫は言った。
「あらまあ、これは失礼を」
少しおどけた様子でレーシャナ姫が口元を押さえると、ゆったりとミマナ姫は話し出す。
「キアラカの父は地獄横町を牛耳っている者の一人。でも彼は可愛い我が子達だけは血の池地獄から逃がしたかった。……十の年に貧民街の子供のいない夫婦に金品を渡して託したの。キアラカは一緒にいたいと泣いたそうよ、でも容赦なく絶縁されてしまった。影ながら見守ってはいたようだけれど、親子の縁はそれっきり……」
語り終えるとミマナ姫はギルガンドに訊ねた。
「それで、やはり『緑毒の悪女』が怪しいと貴方も思ったのね?」
「はっ。私は『シャドウ』と交戦した事がございます。本調子では無かったとは言え……敗北を喫しました」
「およそ親衛隊の女武官一人に撃退されるような相手ではないと?」
「あり得ませぬ」
『閃翔のギルガンド』が断言した。
「……となると、疑問が出てきます」レーシャナ姫が眉をひそめて、「『緑毒の悪女』がどうしてそのような腕の悪い刺客を差し向けさせたのでしょう?」
「それについてでございますが……」
彼は地獄横町で見聞きした事のあらましを話した。
「……由々しき事態!この帝国城に斯様な代物が持ち込まれていたとは!」
血相を変えるレーシャナ姫を宥めるように、ミマナ姫が言葉を発した。
「少しだけ疑わしい『袋』を叩いてみましょうか。……埃の他に何が出るかしら?」
突如として後宮の『清滝宮』が騒がしくなって、そこに住まう『緑毒の悪女』ことアーリヤカ皇太后は顔色を変えた。
「何の騒ぎなのじゃ!?」
答えるように無数の女官に宦官、そして『閃翔』まで連れたミマナ皇太子妃が悠然と姿を見せた。
「アーリヤカ皇太后様、ああ、この度はどうか御無礼をお許し下さいませ!」
そう述べた後で、『緑毒の悪女』の宿敵にして勝利者は優雅に一礼した。
その圧倒的な振る舞いに、己が敗北を喫した事を思いださされて、アーリヤカは怒鳴る。
「何用があって無礼にもこの『清滝宮』へ盗人のごとく押し入ってきたのじゃ!?」
「他意はありませんの、どうかお怒りにならないで下さいまし。
私が異国の珍しい小鳥を可愛がっている事はご存じでしょう。あの子が昨晩の小火騒ぎでただでさえ怯えていた所に、世話していた者が誤って逃がしてしまいましたの。人に甘える事が好きな子でしたから、もしやこちらにおらぬかと思いまして……」
「そんな鳥獣の事など知らぬ!汚らわしいだけではないか!直ちに出て行くが良い!」
「ええ、『直ちに』終わらせて失礼いたしますわ。――さ、『直ちに』探して頂戴」




