第91話 まさかの孫
「……その情報は、何処からです?」
キアラードは悲哀と喜びが同時にやって来た、そんな複雑極まりない顔をして言う。
「妹が今でもキアラカちゃんと付き合いがあるんだ。折を見てアンタにも知らせて欲しいと頼まれたんでな」
「……」
「分かっているだろうが、この情報は皇太子妃以上のごく僅かの皇族にしか知らされていない極秘事項だ。この『閃翔』でさえも例外じゃなかったらしいぞ。
何でも良い、アンタが知っている事を出来るだけ教えてはくれないか?」
少し瞑目し呼吸を整えてから――キアラードは話し出した。
「……ヴォイドに落ちぶれた裏切り者の後始末をした時に、服の裏地の中に巨大な宝石が幾つも縫い込まれていました。鑑定させたのですが、あれは一般市場には流通していない最上級品です。幾ら金を積もうとも相応の地位や身分が無ければ売る事を断られる……。
恐らく、皇族かそれに並ぶ程の大貴族の何者かでしょう」
「……とすると、ミマナ皇太子妃様やレーシャナ皇太子妃様は黒幕では無い。お二人ともその程度の偽装が出来ぬ程の愚かな方々ではあらせられぬ」
ギルガンドが呟く。
そりゃそうだ。あの二人だったらこんな杜撰で証拠・証人まみれの方法など取らず、黒幕として圧倒的に完璧な手段を取るだろう。
見た目が美人である以上に、恐ろしく頭が良くて大胆不敵な度胸がある女性達だから。
ロウも頷いて、
「順当に疑わしい者となると、キアラカちゃんの妊娠で皇位継承権が繰り下がる可能性が出てきた皇子とその母方の一族辺りだな」
このガルヴァリナ帝国では基本的に皇位継承権を持つのは男子のみである。歴史上、何人かの女帝が立った事もあるが、あくまでも表向きは中継ぎの皇帝として立ったらしい。
皇位継承権の通常の順番は、皇帝→皇太子→皇太子の皇子(年齢順)→皇帝の兄弟である皇子(年齢順)→皇太子の兄弟である皇子(年齢順)と言う形になっている。
そこまで考えて、オレ達も――一人だけぶっちぎりで『問題アリ』な皇子がいる事を思い出した。
しかもその『問題アリ』には『緑毒の悪女』と呼ばれた母后が付いているのだ。
「……」ギルガンドも思い至ったのだろう、無言で額を押さえた。
地獄横町からよろず屋に戻る道中、ギルガンドはロウに訊ねた。
「キアラカ皇太子妃様は平民出身であらせられる。……知り合いだったのか?」
「妹と一緒によく遊んでいた。いつだって声が透き通っていて何処からでも響いていた。数年前、救貧院で働いている時に見初められたらしくて、それっきりだ。だが今も元気そうで俺も安心したよ」
ロウの背中にくっつきながら、パーシーバーが楽しそうに笑った。
『……あの子が歌うとこの貧民街でさえ綺麗に澄み渡るようだったもの。あの子が今も元気に歌えているなら、何よりよ!』




