第88話 偽シャドウ②
「シャドウが2人?どう言う意味だ」
ギルガンドが少しだけ顔を引いた瞬間、ロウはオレ達の方を向いて、頷いた。
オレ達も、へい、と頷いて返す。
「昨夜、『地獄横町』にもシャドウが現れたんだ。……地獄横町の暗殺者を取り仕切る闇組織『スーサイド・レッド』の中に裏切り者が現れたそうで、掟で御法度のはずの『神々の血雫』に手を出しただけでなく、その売人のような真似さえしていたらしい。当然、ヴォイドに成り果てていたから、身内でも処分する事も出来なかった。差し向けた手練れが全員返り討ちにされたそうだ。
組織の党首本人がここに来て、どうにかならないかと俺に相談してきたんだぞ」
「あの『依頼達成率9割5分』の……。それで、シャドウが現れたと?」
「そうだ。朝起きたら玄関前に『スーサイド・レッド』の党首からの謝礼が置いてあって危うく転ぶ所だった。これから突っ返しに行くつもりだったんだ」
地獄横町とは、貧民街の中でも最も治安が悪い区画である。ここには『スーサイド・レッド』に代表される闇の非合法組織の根城だったり、違法な薬物や禁制品の闇マーケットがあったりするので、貧民街の住民でさえ怖がって、滅多に近寄らないのだ。
建築法なんてのっけから無視した無茶苦茶な構造で、古すぎる建物がずらりと天高く連なり、昼間でもどこか薄暗くて、大通りを一歩でも外れればネズミがうろつきハエが飛んでいる裏路地に出る。そこには地下街への道がある。この地下街こそ、うっかりでも足を踏み入れれば、貧民街の住民でさえも生きたまま帰る事は出来ない魔窟なのだ。
「おい……」
ギルガンドは地獄横町に漂う悪臭に顔をしかめたが、ロウは平然と先に進む。
「怖いなら帰れ。ここは血の池地獄の門の中だ」
「逃げるつもりか!」
流石に高等武官の格好でここに来たら大事になるので、ギルガンドにはボロ布を上に被って貰っていた。
「逃げたってアンタは空を飛べるんだからすぐに追いつけるだろうが」
「ここには地下街があると……」
「おっ、気付いたようだ。少しだけで良い、黙っていてくれ」
裏路地に出た瞬間、明らかにオレ達一行を狙っている――ならず者達が薄暗がりの中から現れた。
「おい……ここが何処か分かって来たのか、兄ちゃん達」
「ああ、『ピジョンブラッド』を探してきたんだ」
「……。付いてこい」
ならず者の中で立場が上の者がオレ達に合図すると、地下街への階段を下り始めた。
「あれが暗号符丁か」
ギルガンドが小声でロウに言う。
「俺も知るのに手間がかかったよ」




