第82話 未練しかない
「どうしてでもユルルア姫を僕の婚約者にしたい」
その頃には、オレ達は車椅子生活になっていた。まだ怪我も癒えきらず、病床で寝起きしている有様だった。
……一度ならず『赤斧帝』の暴政を諫めようとした皇太子ヴァンドリックが、とうとうその逆鱗に触れてしまった。皇太子の位を剥奪されて死ぬまで鞭打ちされる所を、この第十二皇子テオドリックが庇ったのだ。
『兄上はここで死んではならない。兄上にはこの国の帝王となり天下に太平をもたらし臣民を安んじて……政を……いえ、この国を立て直す責務がある』
『テオ……!』
『未来を頼みます』
両足の骨を折られた上で、処刑場にて息絶えるまで鞭で打たれた第十二皇子テオドリック。
あまりにも凄惨な光景に、貴族や皇族の処刑は笑って見る事がほとんどの民衆でさえ、顔を背け涙を流したと言う。
――精霊獣『クラウン』に転生したオレが出会ったのは、テオが息絶えた、正にその瞬間である。
緊急事態だったのだ。死んでしまったオレが呼ばれたと思ったら、その先でオレを呼んだヤツまで、グロテスクに血まみれで死んでいたんだから。
死体から『魂』が出て行きかけていたので慌てて捕まえて事情を聞けば、これがまあ酷いの何の。それでもその『魂』は言ったのだ。
地獄のように苦しんで、徹底的に苦しめられた挙げ句に死んでも、なお。
『僕はまだ死ぬ訳には行かない、心残りがある』
『何だ?』
『何も僕は成し遂げていない』
『……奇遇だな。オレも未練まみれでここに来た』
『貴様は何者だ?まさか……』
『「精霊獣」って言うのか、この世界だと?でもオレの死ぬ前までの名前は「トオル」だ。まあ……この世界だと「クラウン」って言うらしい』
『精霊獣「クラウン」。――頼む、僕をもう少し生かしてくれ!』
『じゃあ、一緒にオレ達でお互いの未練をやっつけないか。それならオレも手を貸すから』
『良いだろう』
――そしてオレ達はお互いの手を握って、血まみれの死体に飛び込んだのだった。




