第81話 捨てられた醜女
辛いだけの現実を本当は誰よりも分かっていたのだ。死ぬまで愛される事はおろか尊重さえもして貰えない事は。
アルドリックと言う男は玩具が好きなのだ。本来は手に入らないはずの玩具を強引に手に入れて、玩具が泣いて嫌がっているのに滅茶苦茶に弄んでいる事が一番の楽しみなのだ。玩具を壊してしまったり飽きてしまったら二度と遊ばない。
ただ……その現実はうら若い乙女が目の当たりにするにはあまりにも過酷すぎた。
その元宦官は息絶えるまで恨み言を言っていたが、『緑毒の悪女』アーリヤカ皇后は涼しい顔で聞き流し、ユルルアにさっさと呪いを引き受けるようにと命じた。嫌がるならばカドフォの一族をヘルリアンにするだけぞよ、と念入りに言ってまで。
……顔が熱い。熱湯を浴びたような熱が顔中を覆い、痛みが遅れてやって来た。歯を食いしばったがとても耐えきれず、思わず悲鳴を上げていた。
「ああああああああああああっ!」
顔を押さえて倒れた私には目もくれず、アーリヤカ皇后はアルドリックの元へ駆け寄っていた。
「おお、妾の可愛いアルドリック!おぬしを蝕む呪いは消えたぞよ!」
「母上……?」アルドリックはおもむろに体を起こして、「本当だ!もう痛くない!」
それから二人は呪いに苦しむ私を見て、揃って顔をしかめた。
「何とまあ……醜いかんばせになったものぞよ……」
「うわっ!何だあれは!?化物だ!怪物だ!あれはもう人の顔じゃないぞ!『清滝宮』から直ちに追い出せ!あんな者がいたら汚れてしまうだろうが!」
――ユルルアちゃんが、アルドリック相手に命を犠牲にしてまで呪った者の正体が、妹同然に可愛がっていたハビの両親だった事を知らされたのは――一切が終わってしまった後である。
三日三晩泣き暮らした後で、それまでのユルルアちゃんは壊れた。それまでは優しすぎるくらい優しい子だったのに、後宮の庭の木に巣を作った親鳥を追い払い、卵を抱いていた巣を地面に叩きつけては高笑いするような――残酷な一面を持つようになってしまったのだ。
ユルルアちゃんの長兄であるヌスコだけは妹を哀れんで実家で引き取ろうとした。もはやこの顔とこの性格では外に出る事はおろか恋をする事も出来ない。幸いカドフォ家は富裕である。彼女の一生を静かに暮らさせてやる事くらい訳はない。別荘の一つを分け与え、そこで隠棲させようと、密かに彼女が後宮から下がる支度をさせていた――そこにオレ達が間に合ったのである。




