第80話 こうかは ばつぐんだ!
すぐさまアルドリックの顔は焼け爛れた。激痛と熱にのたうち回り、食べ物は喉を通らず眠る事も出来ない。医者が呼ばれたものの、病ではなく呪いだと分かっただけだった。
「どうして俺様が!痛い!熱い!」
アルドリックは泣き喚いた。
「どうにかならないの!?」
アルドリックの母であるアーリヤカ皇后が半狂乱で宦官や女官、医者へ食ってかかる。
一通り狂乱した後で、この稀代の悪女――『緑毒の悪女』とまで呼ばれた女アーリヤカ・ニテロドは言った。
「可愛い妾のアルドリックの呪いを解く方法を見つけたならば、その者の体重と同じだけの金塊をくれてやるぞえ!ただし失敗したならばヘルリアンに堕とし一族を絶やしてくれるわ!」
この言葉の所為で帝国城に『呪いを解く方法を知っている』と訴える平民が殺到した。
その大半が容赦なくヘルリアンにされたが……。
「お美しく慈悲深いアーリヤカ皇后殿下にお知らせしたい事がございまする」
一人だけ、かつて『乱詛帝』に使えていた元宦官がその中にいたのだった。
「ご存じの通り私めは先の帝にお仕えしておりました。その際に小耳に挟んだ事がございまする。『呪いは特定の相手に移す事も出来る』と」
「ほう……。して、どうやるのじゃ?」
「呪いを移すに当たってはまず触媒として人の『魂』と『感情』が必要になりまする。『魂』の方は死罪の咎人より選ぶとして……情愛や思慕のような感情が一際優れた触媒になるそうで……特に乙女の純粋な恋慕の情は最高の触媒になると伺いましてございます」
この時ユルルアちゃんにとって不幸だったのが、ミマナ姫がこの場にいなかった事だった。宿敵であるアーリヤカ皇后相手に、後宮に君臨する女王の座を巡っての静かな激戦を繰り広げていたミマナ姫がここにいれば、必ずや彼女を助けてくれただろう。
「ならば、ユルルアが適任じゃろう」
ユルルアちゃんは震えた。でも、この時の彼女に『否』は言えなかった。
それに――と彼女は希望を持った。呪いを我が身に引き受ければ、今度こそ私を愛してくれるかも知れない、と。
希望こそ絶望よりもタチが悪いものだとも思わずに。
「のうユルルア、おぬしは可愛い妾の息子であるアルドリックを慕っておるのじゃろう?」
「……はい」




