第7話 イルン・デウは全てが妬ましい①
ずっとずっと妬ましかった。
私が持っていないモノを生まれながら持っている連中が。
私よりも下等で無能で間抜けで卑怯者の癖に、生まれついて私にはとても手が届かないようなモノを持っているのだ。
どうして私では無いのか。
よりにもよってあんな連中に与えた神々なんぞ死ねば良いと思っている。
「アイツ、また昇進試験に落ちたんだってさ」
「そりゃそうだろうよ。……また女官に一方的に暴力を振るったんだろう?今度は殊も有ろうに、皇太子妃様直属のさ」
「ああ、毎度のように挨拶を無視したからって理由でな。でもさ、皇太子妃様直属の女官なんて仕事が忙しすぎて、アイツの吃音まみれの挨拶なんて聞こえなかったのが実際だろうよ」
「本当、色々と勘違いしすぎていて気持ち悪いよな。アイツ、武官に行き当たった時に一度だって挨拶した事も無いんだぜ」
「えっ!?女官相手にだけそんな事を……」
「ああ、君は新人だったな。アイツには気をつけろ。アイツは自分が見下せると思ったヤツには何をするか分からないぞ」
「どうしてそんな人がこの資料課にいるんですか……冗談じゃないですよ!」
「ああ言うのは下手に相手すると何をどう勘違いしていつの間に逆上するか分からないからな。資料の整理だけさせておけば一番実害が無いだろう?」
「僕、何としてでも昇進試験に合格します!」
不愉快な雑音。下等生物の吠え声。若造だから見逃してやろう。
「君、頑張ったな!」
「昇進試験に合格したんだろ、凄いな!」
「この課の人達のおかげですよ。色々と試験勉強の手助けをしてくれたじゃないですか」
「はは、頑張る若者を応援して何が悪いってんだ!」
「そうだそうだ、若人の努力を応援するのは年寄りの楽しみさ」
「嫌だなあ、皆さんだってまだまだお若いじゃないですか。その……あの」
「ん、どうした?」
「皆さんみたいな先輩に囲まれていて、僕は本当に恵まれていると思ったんです」
「ははー!言ってくれるじゃねえか、嬉しいことを!」
「それで、その……あの」
「何だ、どうした?」
「実は、ずっと僕が昇進試験に受かったら結婚しようと話し合っていて……。その……式に出来れば……皆さんもお招きしたくて……」
「何だと、相手は誰だ!?」
「めでたいじゃないか!」
「誰が断るなんて言うと思ったんだ!」
下等生物の若造が婚約者として告げたのは、かつて、私の挨拶を無視したので報いを与えてやった女官の名だった。




