第76話 学園ライフは秘密第一
オレ達は『不出来な第十二皇子テオドリック』としていつもは過ごしている。通学している帝国第一高等学院でもそれは変わらない。徹底的に地味で目立たぬよう、決して『シャドウ』だなんて思われないよう、演技しているつもりだ。
幸い、オレ達の身分が皇族でしかも同母兄が皇太子とあって、基本的に絡んでくる奴はいない――異母兄のアルドリック・ニテロドス・ガルヴァリーノスを除いて。
アルドリックの性格を一言で言ってしまえば『汚いだけのジャイアン』である。
「ひっ……!」
帝国第一高等学院付属の昼間には人気の無い寮の裏手で、アルドリックは取り巻きを連れて、特待生を囲んで暴行していた。
「なあ、平民の分際でどうしてこの俺様と机を並べているんだ?不敬だと思わないのか?」
ギャハハハハハ、と取り巻きが爆笑する。
「そ、それはっ」
平民の中でも才覚が認められ、かつ上級官僚と縁故のある者は特待生として帝国第一高等学院に通う事が認められている。貴族や富裕層と対立しがちな上級官僚が身内の勢力を増やすために考えた特例だ。
「おい。コイツは第二皇子である俺様に口答えした。不敬罪で処刑するぞ!」
取り巻きがその特待生を押さえつけた。思わず抵抗しようとした彼をアルドリックは殴った。
「殺しはしねえよ。しばらく歩けなくはしてやるがな!」
――オレ達は一人で車椅子を全力で動かして、どうにかその瞬間に現場にたどり着いたのだった。
「……あ?」
良い所にオレ達が出てきて、邪魔されたと思ったアルドリックは早速オレ達に絡んできた。
「不出来な第十二皇子じゃねえか、何の用だ?」
「……皇族のすべき振る舞いじゃ……ない」
「もしかして不出来な第十二皇子サマはこの俺様に意見しようって魂胆でここに来たのか?」
「……」
「黙っていればどうにかなると思うなよ!」
車椅子が蹴られて倒れ、オレ達は地面に投げ出される。
「うっ!」
「あーあー……本当に不愉快だ」
ついでに唾まで吐きかけて、アルドリックは足音も荒く去って行った。取り巻きがその後を慌てて追いかけた。




