第75話 気持ちレビラト婚
『善良帝』のやらかしはこれで済んだとオレ達は思っていた。
……何もかも甘かった。
まさかのまさかで、元夫のソーレが罰せられたため肩身が狭くなって実家から追われてしまったソーレの元夫人を娶るようにと言ってきたのだ。
何でも御夫人自ら、子供達の養育&教育費のため立候補したんだってさ。
従兄弟の嫁を娶るって、気持ちレビラト婚が入っていないか。兄弟の妻を娶るって言うあの……。
ドン引きしつつも表立って反対できないオレ達は、オユアーヴに念のため聞いてみた。
「良いのか、本当に」
「子供を作った事がある熟練者なら実演してくれるだろう」
……共同作業だぞ?しかも子供達が既にいるんだぞ?
だが突っ込んだ所で方向をぐるりと間違えた返答しか帰ってこないのは分かりきっていたから、オレ達は黙っていた。
オユアーヴは忙しくなった。宦官を辞めて、結婚して、御印工房『インペリアル・ブラック』の顧問を務める事になった――はずなのに、どうしてか今、『黒葉宮』の台所で魚をさばいている。
「仕事は?」
「ここで働かないと集中できないと言ってきた」
「結婚は?」
「平日は向こうの家に泊まる事になった」
「反対されなかったのか」
「ソーレの事で謝られたから、謝罪の代わりに認めろと言った。そもそもマニイは何も悪くない」
「それで、その……」
夫婦生活を勅命で言われているが、大丈夫なのだろうか。普通の人間でも色々とあるのに、片割れがこの……最初から最後まで極端なオユアーヴだ。
マニイ夫人が相当抱え込みそうで今から不安で仕方ない。
信頼できる女官か誰かを派遣し、愚痴を聞いてやって欲しいとオレ達でさえ切に思った。
「子作りならしている。女の体と言うのは何処までも柔らかいのに火傷しそうに熱くなるものなのだな」
「!?」
この場にクノハルがいたら顔を赤くしてオユアーヴの頬を容赦なく張っていただろう。
ユルルアちゃんがいたら微笑んで花瓶でオユアーヴの頭を殴って――いや、ここには切れ味抜群の肉包丁がある!
二人がいなくて良かった……と安堵する。ここで流血沙汰は勘弁して欲しい。
その予防のためにオレ達はオユアーヴにこんこんと説教した。
「良いかオユアーヴ、そう言う感想は夫人以外の女性の前で絶対に言うな」
「そうなのか。マニイは喜んでいるようだったが」
「夫人以外の誰にも見せたくも渡したくもない芸術作品をオユアーヴが作って夫人に渡したとする。誰にも見せないでくれ渡さないでくれと願っていたのに夫人が勝手に一般公開した上に売り払ったら、オユアーヴはどうする」
「家を出て行く」
「夫人にとっては、さっきの感想はそれと同じだ」
「二度と言わない」




