第67話 認識の相違
オユアーヴは話してくれた。
義理の養父母が毒を盛られたとしか思えない死に方をした事、あまりにもタイミング良くソーレがクォクォ家の当主になった事、儀礼剣の件では大勢から殴られて倉庫に放り込まれた事、その後でオユアーヴが起こした暴力事件の真相……。
「オユアーヴ、どうしてそれを今まで黙っていたのですか」
クノハルが呆れ半分で訊ねると、さも当たり前のような顔をして、
「俺は芸術作品を、美しいものを生み出せるならそれ以外は気にならなかったんだ」
「ねえ、テオ様。治安局の調査員ではなくて局長へ打ち明けてしまいましょう。恐らくソーレが治安局の一般職員に賄賂か、何らかの手を回して似顔絵の件を誤魔化していたのでしょうから。このまま見過ごす事だけはいけませんわ」
ユルルアちゃんにオレ達は頷いて、
「勿論だ。クノハル、頼まれてくれるか」
殿試を首席で突破した肩書きを持つ彼女なら、多忙な局長にも話を聞いて貰えるだろう。
「直ちに」
クノハルは一礼して黒葉宮を出ていった。オレ達はオユアーヴにも頼む。
「オユアーヴ。ロウ達にも伝えてくれ、下手人を突き止めたと」
「分かった、ついでに帝国城の外で少し買い物をしてくる。調味料が減ってきたからな。夜までには戻る」
とオユアーヴは出かけていった。
「いつも思うのだけれど、帝国城の食堂で使う食材や調味料を分けて貰えたら買い物の手間も省けるのに……」
少し困った顔をしてユルルアちゃんが呟いた。
「仕方ない、僕は毎月の食い扶持で生きていくように命じられている。不正をしてまで金を貯め込もうとすると、いずれ露呈して処罰されてしまう」
「でもテオ様、先ほどゲイブンから渡された今月の請求書をご覧になって?」
「これか?」
そう言えば似顔絵ばかり見ていたな、とオレ達は請求書の方に目を落として――絶句した。
「……何で食費がこんなに高いんだ!」
「ほら、テオ様を庇って二人が治安局で取り調べを受けたでしょう、その憂さ晴らしだそうですわ」
「そ、それは仕方ないか。だが相変わらず遊興費が……」
「情報料の対価ですわね。それと『閃翔のギルガンド』がロウに何かと付きまとっているらしくて、その苛立ちを遊郭と賭博で解消させている、らしいですわ」
「どうして僕は『閃翔のギルガンド』の両手両足を骨折させておかなかったのだろうか……そうしたらしばらくは動きたくても動けなかったのに!」
「テオ様……手遅れだからこそ誰もが悔やむのですわ……」




