第66話 その選択肢を選んだからには
オレ達の車椅子を押すオユアーヴが、最初に似顔絵の存在に気付いた。
「何だ、この絵は……どうしてソーレが?ん、指名手配?……おい、彼奴が何か罪を犯したのか!?」
――御印工房『インペリアル・ブラック』の頭領!
そうだ!
オレ達の記憶が鮮明になった。
そうだ、この男はソーレ・クォクォだ!
「『黒葉宮』で話す」
オユアーヴに耳打ちすると何かを悟ったらしく、顔を固くして頷いた。
「……人殺しを、彼奴が」
オユアーヴはギョッとした様子でもう一度似顔絵を見た。
「正確には人殺しもしくは死体損壊だ。だが、どうして……?」
ソーレ・クォクォは優秀な職人で頭領だ。だから「赤斧帝」がいなくなっても排斥されずに残っている『例外』だった。結婚もしていたし、子供もいたはずだ。
何がどうして娼館に出かけて娼婦相手に暴力を振るい、挙げ句殺すような事をする必要があったのか。
オユアーヴは椅子に座り込んでしまった。
「分からない。彼奴は……俺の持っていない全てを持っていたのに」
「そのソーレ・クォクォについてですが、最近奥方が子供を連れて実家に帰ったようです」
丁度良くクノハルが来た。
「どうもソーレから離縁されたようで……」
「どちらかが浮気でもしたのかしら?」
ユルルアちゃんが眉をひそめた。
「それが、いきなり子供に暴力を振るった挙げ句一方的に離縁状を叩きつけたと」
「彼奴の脳に大きな腫瘍でも出来たのか?」オユアーヴは目を丸く大きく見開いた。「確かに彼奴は親族に毒を盛ったり俺を殴らせたり色々としたが、そこまで凶暴になったのは初めてだぞ」
……待て。
ソーレが親族に毒を盛っていた!?
オユアーヴを殴らせた?
これだけでも終わっているのに、その他にも色々していただと?
それはもう、既にソーレの選択肢の中に『殺人』が入ってしまっているって事だぞ。




