第52話 迷惑系
「出て行け。仕事の邪魔だ。存在が鬱陶しい。消えろ。二度と来るな。くたばれ。自刎でもしろ」
ロウが暴言を吐いているのはゲイブン相手ではない。ゲイブンは既に遊郭に手伝いに行くと言う名目で『よろず屋アウルガ』から逃げ出している。代わりに貧民街の噂好きで暇な連中が、興味本位で窓から我先にのぞき見をし、壁の隙間から聞き耳を立てている。
「貧乏神と一緒に寝ているような男に何と言われようと構わん!」
まだ負傷が完全には癒えていないのに、何とギルガンドが居座っているのだ。
貧民街の彼らからすれば、天変地異と驚天動地が足を生やしてやって来たようなものである。
『な、な、ななななななな何ですってええええええええええええええええええええええええーっ!?ロウに毎晩膝枕してあげているこの精霊獣パーシーバーちゃんを貧乏神扱いですってえええーっ!?この!この天狗ピノキオ鼻柱高過ぎ男っ!帝国十三神将だか「閃翔」だか何だか知らないけれど!この、この、このパーシーバーちゃんを怒らせたわねぇーっ!?許さないわ!鼻の穴とお尻の穴に唐辛子を詰め込むわよーっ!』
パーシーバーが激怒して(一生懸命威嚇するように)足を踏みならしたが、運悪く今のギルガンドには見えも聞こえもしていない。
「もうウンザリだ。こんなにも悪質な借金取りは初めてだ。悪徳高利貸しの方が余程マシだった!」
ロウは手探りで杖を手にすると、足早によろず屋から出て行こうとする。
「おい、貴様!何処へ!『シャドウ』が出てくるまで貴様を見張らねばならぬ!」
「何処って、遊郭だ。その後は闇カジノに行く」
「違法だろう、闇カジノは!?」
「お貴族様の都合や法律など知らん。絶対に付いてくるなよ」
「断る、また『シャドウ』が出てくるまでは貴様を尾行する!」
「男と女がまぐわう現場まで付いてくるだと?……どうかしている」
結局、ロウに付きまとって遊郭に入ろうとしたギルガンドだったが、手ぶらだったために冷やかしだと受け取られた。それは遊郭のルール違反だったのですぐさま『番人』によって叩き出されるかと思いきや――。
そこは腐っても帝国十三神将が一人、小指の先で返り討ちにしてしまい、これに激怒した遊郭の大楼主マダム・リルリによって『番人』が復活するまでの仮『番人』として扱われて、人生初にして最大の屈辱に震えたのだった。




