第50話 詰め寄られる
「お、おいら何も……何も悪い事なんかしてねえですぜ……!」
「言い訳は要らん!」
「ひぃええええっ!?」
帝国治安局の歴戦の捜査員に詰め寄られて、ゲイブンは半分泣いていた。
「だ、だって、おいら、ロウさんの世話で『縁切り廟』に付いていっただけなんですぜ……ひぐ、ひっく……!」
「あまりしらを切るならば拷問する。そうだな、まずは爪から……」
「ひぇいいいいいいいいいいいいいいーっ!?」
ゲイブンは少し漏らした。全部漏らさなかっただけ大したものである。
「おい!」
そこに別の捜査員が駆け込んできて、何か耳打ちした。
「……完全に無関係だと?」
「ああ、御本人が間違いないとおっしゃっている。それに、あの不出来な第十二皇子が、『このままでは通学が出来ない』と珍しく文句を付けてきた」
「他の者に送迎させれば良いだろうが」
「一番腰が痛まないのがそのガキなんだそうだ」
「ハァ……もう帰って良いぞ」
「えっ」ゲイブンは顔を輝かせて、それから泣き出した。「ホントに……!?本当にもう……!?」
「……とっととあの目が見えない男を連れて帰れ。ここの不味い飯が嫌だったらな」
「はい!ですぜ!」
籠から放たれた鳥のごとく、ゲイブンはそそくさと取調室から出ていった。前屈みになって股間を抑えて。
捜査員達はその後ろ姿を見て、それぞれ頷く。
「あれは……絶対違うな」
「無理、無理だ。ああ言うのは盗みでも殺しでも、何かの悪さをやろうものなら、一日以内に自首するような臆病者だぞ」
ゲイブンが治安局の建物の中から裏口へ逃げるように飛び出ると、既にロウが杖を突いて待っていた。
「……ゲイブンか。お互い大変な目に遭ったな」
その声がいつになく優しかったので、ゲイブンの緊張が決壊した。
「ロウざあああああああああああああああああああああああああん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
すっころんだ小さな子供のようにワアワアと声を上げて泣き出すゲイブンの頭を、ロウは手探りで撫でてやった。
「おいら何も、何も悪い事なんてえええええええええええええええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「分かっている、分かっている。さあ行くぞ、こんな所に長居なんてしたくないだろう」
「あ゛い゛でずぜ!」
ゲイブンは鼻水を啜っては何度も何度も肯いた。
二人は早歩きに歩き出した。
「尾行は……無いようだ。もう喋って良いぞ」
「ひっぐ、ひぐ、う゛ええ゛ええ゛ん……!お、おいらもう何もかも『シャドウ』の事打ち明けて楽になろうとか、マジで思ったんですぜ……こ、怖かった、怖かったんですぜえええ゛え゛ーっ゛!」
「よく頑張ったな。後で多めにテオに請求してやるから、旨いものを飲み食いするぞ」
「それなら、おいら鶏肉の『唐揚げ』かピッチピチの魚料理が腹一杯食べたいですぜ!」




