第47話 謎の精霊獣を従える者
最深部は何の照明装置も無くて暗い闇に満ちていた。だが、もぬけの殻なのが伝わってくる。確かに先日来た時にはあったはずの巨大な気配が、綺麗に消えてしまっている。
「何処に行った!」
せめて手がかりを探そうと、携帯照明を灯した瞬間だった。
「死ネ」
男か女かも分からない声と共に、ナイフが振り下ろされたのをギルガンドは平然と二本の指で挟んで止めている。
「非力だな……子供か女か。ヴォイド絡みでさえないな!」
「黙レ」
蹴り上げられたつま先に刃物があったが、当たり前の顔をしてギルガンドは避けているし、ついでに携帯照明も持ち直している余裕がある。
これなら、まだ『賢梟のフォートン』の鋭利な舌鋒の方がギルガンドにとっては圧倒的に厄介だった。
「邪魔だ」
軍刀の鞘でその人物の胸を軽く突くと、鈍い手応えとくぐもった悲鳴が上がり、あっけなく吹っ飛ばされて壁に激突してしまった。
周りに伏兵がいないか確認してから、ギルガンドがこの人物を捕縛しようと近づいた瞬間。
『「V」!』
――ギルガンドがその奇襲を紙一枚で回避できたのは、彼が『閃翔』の名に相応しい武人だったからだ。余人であればまともに受けて、絶命しているか動けなくなっている。
ギルガンドは距離を取って観察する。
ここで「タイラント」でもない新たな『精霊獣』が顕現するとは。
だとすればこの者は――皇族の血を引いている。生きたままで捕獲すべきだろう。
……ギルガンドの代わりにまともに攻撃を受けた携帯照明が壊れかけたまま床に落ちて、ちか、ちかと明滅する。
「『スレイブ』!」
謎の人物が切羽詰まったような声を出す。
『「V」、相手が悪すぎる、「閃翔」だ!ここは逃げよう』
「駄目ダ、殺ス!」
『だったら……俺、が、』
その『スレイブ』と呼ばれた精霊獣は謎の人物を庇うようにしてギルガンドの方に向かったものの、向き合った瞬間にぐらりと体勢を崩して手を床に突いて、低く呻いた。
「止メロ『スレイブ』、死ンデシマウ!」
謎の人物が精霊獣にすがった――その瞬間だった。




