第44話 エルダー級ヴォイド3体よりも
直後、天からヴォイド3体をギルガンドが急襲した。ゆっくりに見えるのに回避できない太刀筋で見事に両断する。一拍遅れて3つの断末魔が上がったその時には、ギルガンドはヴォイドの下僕にされていた他の親衛隊の兵士達が襲いかかってくるのに、次々と当て身をくらわせて完全に黙らせていた。
「貴様はここにいろ!」
ギルガンドは怒鳴ると、『封印塚』を睨んだ。
「そうする」
ロウは頷き、オレ達はそのロウにしがみついて震えているふりをする。
――伏して拝んでいた平民達が事態に気付いて我先に悲鳴を出して逃げ惑う中、ギルガンドは『閃翔』の名に相応しく、鮮やかにその身を空に翻し、『滅廟』目がけて飛んでいったのだった。
このままでは、処刑されヘルリアンに堕とされようと、己が許せない!
ギルガンドは顔にこそ出さなかったが、焦燥感に駆られていた。
ヴォイドの支配下にあった『親衛隊』の兵士をなぎ倒すようにして、一目散に『滅廟』の最深部に突き進む。
武人としてこの焦燥感が致命的である事実も、ここは一度引き返して『幻闇のキア』から報告を受けて直ちに派遣されるであろう増援を待つべきだと言う正解も、ギルガンドはしっかりと理解できている。
だが、事実や正しい事が常に良い事だとは限らないのだ。
正解がその時の最適解だったら、誰も苦労しないのだ。
ギルガンドが正しいと信じて「赤斧帝」に正解を突きつけた結果、武装と言ったら農具と害獣を狩る粗末な弓矢しかない村が三つも虐殺の対象にされ、赤子に至るまで――。
――主君である皇太子ヴァンドリックの言葉が、ふと脳裏をよぎった。
『正義とは常に苦く痛ましいものだ。苦くなくなった瞬間に偽善へと変わり果てる』
『貴方はいつだって正しくありなさい』
その言葉を追いかけるように、痩せ細った手を握りしめた時の母の遺言が蘇った。




