第42話 実在する幻
『其奴らの勤務地は分かるか』
『……乱闘騒ぎ以降、「滅廟」の警備に回されている』
『増援を呼べ、すぐに!』
ロウは焦った様子で伝えたが、
『この私を誰だと思っている。ヴォイドごときが幾ら待ち構えていようと、引けは取らん!』
『この際ヴォイドなんか知った事か!アンタならどうにか出来るんだからな!
問題は「赤斧帝」だ!あの最悪の暴君が関与しているかも知れない。通常なら「絶対にあってはならない」可能性が「既にある」んだ!
その可能性が殻を破ろうものなら――今度こそこの帝国が滅ぶだけじゃ済まないぞ!大陸全土の人民が根こそぎにされる!』
チッ、とギルガンドは舌打ちこそしたが、すぐさま懐から取り出した不思議な形の笛を吹いた。
……耳に聞こえる音はしなかったが、パーシーバーが目を見開いてまで驚いた所から、何かが外部へ放たれた事は分かった。
「呼んだ」とだけギルガンドは呟いた。
「誰を……?」
「『幻闇』だ」
それはギルガンドと同じく帝国十三神将が一人だ、ただし――。
「実在したのか、『幻闇のキア』が!?」
ロウもオレ達もびっくりした。
ギルガンドは渋い顔で頷き、
「私も顔までは見た事が無い。だが、もうすぐ出てくるぞ」
『そうね、何かが急速に……近づいてくるわ』
パーシーバーが呟いた瞬間、それまでカッポカッポと順調に蹄の音を立てて進んでいた馬車の速度が、ガクンと落ちた。
「おっと!」御者が声を出す。馬車がゆっくりと停まった。御者が困ったような声で、「すみませんね、ウチの馬公が調子が悪いようで……あ!蹄に石が刺さって……こりゃ大変だ!」
ギルガンドが席から立った。
「構わん。目的地はもうすぐだ、ここからは歩く」
帽子を取って謝る御者を置いて――オレ達が馬車から降りて歩き出し、街道沿いの道を曲がった瞬間。
その人物は目の前に出現していた。
体型や顔を隠す格好をしている所為で年齢不明、性別不明。
ゲイブンと比べると身長は少し高めだが、これだって偽装している可能性がある。
ロウに引っ付いているパーシーバーが興味半分と言った様子で言った。
『凄いわ……何のニオイもしないじゃないの。身元不明を徹底しているわよ、コイツ!』




