第40話 滅廟
赤斧帝とタイラントもそうだが、精霊獣は精霊獣を従える者とは『魂』で結ばれている。意識や寿命まで共有している、とでも言えば良いのか。
赤斧帝も精霊獣タイラントが死ぬまで死なないし、殺す事も出来ないのだ。
単に赤斧帝の首を刎ねた、心臓を突いた程度では無駄だったって事だ。
だから、赤斧帝を幽閉する時は命がけでタイラントを誘って引き離した瞬間に、帝国十三神将の猛者が総掛かりで赤斧帝を人質にし、その隙に先にタイラントを封印してからようやく赤斧帝の幽閉にも成功した……と聞いている。
――翌日の早朝、平民向けの乗合馬車が数多く停まっている『駒辻』の一角で、オレ達とギルガンドは落ち合った。
「へえ、お客さん達も『縁切り廟』に行くのかい?珍しいもんだねえ……」
乗合馬車の中でも小型の馬車を借りて行き先を告げると、御者が変な顔をした。そりゃそうだ、いかにもお忍びの御貴族様らしいギルガンドと、平民丸出しのロウとオレ達が一緒に馬車に乗るつもりなんだから。
「ああ、この前詣でた知り合いが目の病が治ったらしくてな。俺ももしかしたら……と思ったんだ。こっちの御貴族様とは今朝がた娼館で出くわしたんだが、何でも胃の病が酷いそうで、その話をしたら面白半分に付いてきたんだ」
娼館で出くわした上に胃が悪い御貴族様と呼ばれたギルガンドが、一瞬だけ凄い顔をした。
「ああ、きっとそいつも病との悪縁を切ってもらったんだろうねえ!」
納得したらしく御者は運賃を受け取ると、オレ達をさっさと馬車に乗せて、馬に軽く鞭を振るった。馬と言っても貴族しか買えない立派な軍馬じゃなくて、大人しくて馬力はあるけれど足の遅い農耕馬だ。
「おい、貴様!」
馬車が動き出すなりロウに文句を言おうとしたギルガンドだったが、ロウが杖で座席を軽く叩いた瞬間に顔色が変わった。
『実際にアンタは胃が悪い、無自覚らしいが。口臭に、内臓が弱った者特有の臭いが混じっているからな。一度医者に診て貰え』
旧式になっているとは言え――杖で座席を軽く叩く音で、軍用の暗号通信を始めたのだ。
馬車の車輪が轍を転がる音に紛れて外には聞こえにくいし、ただ会話するより遙かに情報漏洩を抑えられる。
『この可愛くって優秀で有能でお利口さんのパーシーバーちゃんが教えてあげたんだからね!』と、ロウの膝に勝手に座っているパーシーバーが自慢そうに言っている。『でもロウはこれを元に無音通信を開発しちゃったから……ううん!それだってこの!キュートでラブリーで!エクセレントでエレガントな!パーシーバーちゃんの助言のおかげよー!しっかり感謝してよね!』
相変わらず口を開けば「寿限無寿限無五劫のすり切れ~」のごとく延々としゃべり倒す精霊獣である。




