第36話 世界に不満を抱く者
「私は貴様が『シャドウ』だと思ったのだ、ロウ・ゼーザ。この私に何かを貴様は隠しているだろう」
はあ、とロウはため息を吐いて、ギルガンドへ背中をゆっくりと向けて墓地の中を歩き始めた。
「確かに、俺はある程度『シャドウ』と関係がある」
「ある程度?」
「俺はご存じの通りよろず屋をやっている。中にはヴォイドになって暴れている家族を殺して欲しいと言う血涙ながらの依頼もある。だがあれは正真正銘のバケモノ、俺にだってどうにもならん。だが、そんな時にこそ……シャドウは現れる」
「……。『シャドウ』とは何者だ?」
「目が見えないんだ、正体までは分からん。……一人の男だろうよ。それも俺ぐらいに貧民街に詳しく、かつ神出鬼没で、ヴォイドさえ倒しきる力を持つ。
俺だって何度も危ういところをシャドウに助けられた。だから、教えられる情報はここまでだ。命の恩人を売れば俺は信用を失う、そうしたら生きていけないんでな」
「この小僧はシャドウを目撃した事はあるか?」
げっ、ギルガンドの注意がこっちに向いた!
「あるはずだが……いつだって噂と同じ事しか言っていなかったぞ。なあゲイブン?」
ギルガンドに鋭い視線で睨まれて、オレ達は頷いた。黙って、何度も。
「……そうだな、この貧相な小僧ではヴォイドの討伐は不可能だな」
少し考えてから、ギルガンドは舌打ちした。
良かった……!何となく貧相に見えるように、今はパーシーバーが視覚を適切に誤魔化してくれているのも助かった。
オレ達から注意が逸れたと確信したロウは、足を止めてギルガンドの方を向く。
「それより俺が逆に聞きたい、『神々の血雫』やヴォイド絡みの事件がこの頃多すぎる。金も伝手もないはずの貧民街の住人でさえ、どうしてかヴォイドになっていたんだぞ。
帝国治安局は何をやっているんだ。この前ようやく流通組織の親玉を抑えたと聞いたが……ただのデマカセだったのか?」
「……『この世界に不満を抱くならば、雨の日に貧民街のある空き家で国歌を逆から歌え。世界を変える力をくれる者が現れる』」
――何だ、その話は!?




