第35話 安らかに眠れ
オレ達はゲイブンの代わりにロウの片手を繋いで歩く。もう片手で杖をついて歩きながらロウはぼやくように言った。
「とうとう帝国の上層部も『神々の血雫』の根絶に本腰を入れたか。遅すぎるくらいだ」
「……」
あれ、ギルガンドが黙っている。
どうしたんだろうとオレ達が不思議に思って振り返った時、ギルガンドは抜刀してロウの顔面に刃先を突きつけた。
それを見た瞬間、町辻で好き勝手に屯していた貧民街の住人達が我先に家に逃げ込み、ボロボロの雨戸や窓をすぐさま閉めた。
「ひゃあっ!?だ、誰かーっ!!」
オレ達は悲鳴を上げておく。パーシーバーは目をつり上げた。
『ちょっと!アンタ!「閃翔」だか何だかはどうでもいいけれど、このパーシーバーちゃんの大事なロウに何をするのよ!』
ギルガンドは冷え切った声で問い詰める。
「貴様が『シャドウ』か?」
ロウはこの状況でも落ち着いている。
非常に頼もしいが――このギルガンドが相手だと戦って切り抜けるのはいくらなんでも厳しいから、今は言葉で何とかしなければならない!
「……俺は目が見えないんだ、一人きりで戦うなんてとても無理だ。よろず屋の主で精一杯さ」
「だが貴様の所に来たヴォイドを始末しただろう」
「それも俺じゃない。……話すから、今はとにかく暴れないで付いてきてくれ」
……帝都の郊外に広がる平民用の共同墓地の一角にある、真新しい墓。
オレ達はゲイブンに頼まれていた通りに、明るい色合いの花束を――共同墓地の入り口に構えている露天商から買って、その墓の前に供えた。
「……何の冗談だ」
忌々しさと怒りが混じった声でギルガンドは唸った。
対照的にロウはいつもと変わらない態度だった。いや……少しだけ悲しそうだった。
「なあ、『閃翔のギルガンド』さん。俺とゲイブンで生きたヴォイドを退治できるなんて本当に思ったのか?」
「……それは」
フェーアって娼婦は、ロウとはそれなりの付き合いだったと聞いている。
ゲイブンのような恋慕は無かったにせよ、情はあったんだろうな。
「彼女は心が人間でなくなる前に人間として死んだ。治安局に届けなかった事は詫びる。だが……これ以上の悲惨な思いを彼女にさせるのはどうしても忍びなかったんだ」
「この墓の下にいるのか」
「どうしてもと言うのなら……、掘り起こして確かめてくれても構わない。だがどうか頼む、女の武官を呼んで欲しい。家族から虐げられ、奪われ、絶望してヴォイドになったのに心が人のままだった女を哀れに思うのなら……」
ふん、とギルガンドは嫌味っぽく言った。
「実際に死んでいるならば良いだろう。下らぬ情けでヴォイドを生かしておけば我らが帝国と臣民の害にしかならん」
助かる、とロウは一礼してから――とうとうこの話題を切り出した。
「まさかとは思うが、『閃翔のギルガンド』程の大物が、『シャドウ』について何か探っているのか?」




