第31話 forget me
「先に言う。毛髪組織……からの結果だが、フェーアの身体組織は厳密には『チャイルド』級のヴォイドではない」
オユアーヴの言葉にクノハルが凄い剣幕で食ってかかった。
「それは、どう言う意味です!?まさかまだヒトだったとでも――」
「いや、ヴォイドがより『純化』した存在だと仮定すべきだ」
「『純化』って……それって、まさか」
ユルルアちゃんも息を呑む。
「いくら『神々の血雫』をばらまいてヴォイドを生み出しても、『シャドウ』達に撃破されてしまう。ならばより強力で悪質に『神々の血雫』を『改悪』していく他は無かったのだろう」
「進化……ヴォイドがか……」
オレ達は今後の更なる激戦を予感する。
何、覚悟は出来ているさ、相棒。
ああ、僕達がやろう。
――しばしの沈黙が流れた後。
「ところで……ゲイブンは?」
ユルルアちゃんが心配そうに呟いた。クノハルが頷いて、
「しばらく休暇を貰うと言っていました。トロレト村へ……フェーアの毛髪だけでも葬りたいと。彼女の元・家族も治安局に摘発された事ですし、兄も同行するそうです」
「そう。……きっとゲイブンの故郷の村だもの、フェーアの魂だって温かく迎え入れてくれるわ」
「ええ、『私を忘れて』なんて言われても……それは無理な話でしょうね」
「ロウさん、おいら……いつか必ず医者になりますぜ!」
雑草まみれの道を歩きながら、ゲイブンは唐突にそう言った。
「いきなりどうした?」
「……誰かを好きになる責任って、今までおいらは知らなかったんですぜ。何なら、恋した責任も、誰かに親切にする責任も、優しくする責任も、なーんにも知らなかったんですぜ」
「まあ、それはそうだな。ゲイブンはまだまだ子供だ」
「だから……うん、大人になるって事が自分のやる事の全てに責任を背負うって事だとしたら……何か、おいら、その覚悟が出来た気がするんですぜ!」
ゲイブンはそう言って、視界の端に見えてきた『トロレト村』――正式には廃村となった旧トロレト村跡を眺めた。
彼にとって、たった一つの故郷で、この世の生き地獄だった所で、村人や家族の魂が眠っている墓地でもある。
今となっては、ここに来るのもゲイブン一人だけになった。
「そうか。固有魔法に早く目覚めると良いな」
「げーっ!?ロウさん、この今にそれを言うんですか!?少しは空気読んで下さいですぜー!そんな有様だからおっさん臭いおじさんなのに嫁さんどころか恋人さえ出来ないんですぜー」
「黙れ、この馬鹿小僧!」
いつものように仲良く喧嘩する二人を見て、きゃはははっ、と軽やかな声でパーシーバーは笑った。
『本当ゲイブンってばお馬鹿さんなんだから!そんなの決まっているじゃない!ロウはこのパーシーバーちゃんの大事な人なんだからねー!誰にも渡さないわよーっ!』




