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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
First Chapter

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第30話 手に入らないからこそ求めてしまう

 「私はね、愛して欲しかったの。家族から……娘として、妹として、愛して欲しかったの」


 『ヴォイドに堕ちた者はもうヒトには戻れない』


 「分かっていたのよ、あの人達からは絶対に愛して貰えない事。私の固有魔法が『発情』だと知った途端に、借金の形にされて遊郭に売られちゃったくらいだったしね」


 『「神々の血雫」を使用した者は、厳正に法に則り処刑する必要がある』


 「本当はね、お医者様になりたかった。ずっと隠れて勉強していたっけ……。どうせなれない事は分かっていたけれども、ほら、夢まで捨てたらあの人達と同じになってしまうでしょう?」


 『人類の魂を無差別に喰らう化物』


 「立派なお医者様になったら、いつかあの人達の心を治せるんじゃないかって。そうしたら今度こそ私達、幸せな家族になれるんじゃないかって……ずっと……ずっと……。

でもね、あの人達は私の事が心底『都合の良い道具』だったんだなって……これを渡された瞬間に分かってしまったわ。確かに私は汚い娼婦だけれど、これが何か分からないほどバカじゃないつもり。『神々の血雫』……身に着けたら問答無用で死刑……そうでしょ?」


 「死刑だって分かっていたなら、どうして、どうして、どうして身に着けちゃったんだ……フェーアさん!」

『エルダー』級のヴォイドでも突破できない特殊な構造の地下牢の前で、ゲイブンは膝を突いて泣き崩れていた。

ロウがその背中に手をやっていた。

ゲイブンには見えていないが、『パーシーバー』もゲイブンを抱きしめて一緒に泣いている。

「おいら、フェーアさんの事好きだったんですぜ!あの日……結婚式だったのに、全部全部全部メチャクチャにされた姉貴そっくりだったから……!」

フェーアは呟くように言った。

「そっか……ごめんね……。何か、『もう、いいや』『もう、疲れた』って思っちゃってね……」


 「一緒に逃げようですぜ!二人だけで暮らせる所まで――お願いですぜ!」

 「あはは……君が最初から私の家族だったら、良かったのにね」


 そこでフェーアはオレ達の姿を見て、ふっと微笑んだ。

「ああ、貴方が噂の『シャドウ』でしょ?本当に……噂じゃ無くて、実在したのね」

ゲイブンが振り返って、笑いながら泣き出した。

いや……顔だけ笑って、心は泣いているのだろうか。

「ははは……あははははっ……ははっ……もう……もう……来たんですか」

夜明け前の暗闇に紛れて、オレ達は帝国城を抜け出してきた。

「ああ」

オレ達は2丁拳銃『シルバー』&『ゴースト』を構えた。

フェーアは黙って目を閉じた。

『チャイルド』級のヴォイドとは思えない態度だった。

「『シャドウ』さん……!」

ゲイブンがオレ達にすがるように手を伸ばして、ロウが黙って抑え込む。

「一つ、聞かせてくれ」

オレ達は彼女に訊ねた。

「どうしたの?」

「どうしてロウの所に来た?」

「何でだろう……よく分からない……。あの人達から逃げたくて、無我夢中で遊郭さえ飛び出して――気付いたらここに来ていたの。どうしてだろうね。……『よろず屋アウルガ』って、あくどい依頼じゃなければ何だって叶えてくれるって有名だから、きっと楽にしてくれるって思ったのかな……。ああ、もしかしたら、ブンちゃんに会いたかったからかも……」

「遺言はあるか?」

「えっと……」

彼女は少し黙ってから――

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