第295話 ガン=カタ皇子、夜に踊る
今や、どこもかしこもその噂で持ちきりである。
帝国第一高等学院が、帝国城が、帝都が、帝国が、世界中が。
「『シャドウ』が世界を救ったそうだぞ」
「あの夜、聖地へと夜空を一人駆けた者は『シャドウ』だったらしい」
「凄く格好良かったらしいぞ!」
その噂の主は、今夜も――。
かくなる上は開き直って行くしか無いぞ、相棒。
ああ、もはや他に道は無い……。
――さて。
その噂は、いつ誰が最初に口にしたのかはどの者も知らないのに――ガルヴァリナ帝国の偉大なる帝都ガルヴァリーシャナで暮らす民の中で、謎めいた空想話のような内容をひっさげながら、あっという間に広まっていたのだった。
「その仮面の者は不思議な武器を両手に宿し、闇夜のごとき黒い装束をまとって、この帝都に蔓延る邪知奸悪と戦っているそうだ」
「どうも、さる高貴な方のご落胤らしい」
「何でも、皇帝殿下の密命で動いているとか」
「いや、神々が遣わした正義の執行者だと聞いたぞ」
――その噂は間違ってもいないが、正解でもない。
噂は所詮は噂でしか無いのだから。
有象無象の噂を、むしろ隠れ蓑にして『彼ら』は今夜も暗躍するのだ。
表向きは『不遇で不出来な皇子』を演じ、そして夜の訪れと共に月光に照らされる帝都に赴いては――。
そうさ、オレ達は今夜も踊る。
全てはガン=カタを極めるために!
Gun=Kata Prince Dancing in the Night―Finale!




