第28話 束縛、呪縛
もう限界だった。
フェーアは止めようとする娼婦達を振り切って裏口に出た。
「これ以上私に何の用!?」
「やかましい!あたしの産んだ娘なんだから言う事を聞け!」
喚くなり老婆はフェーアの手首を掴んだ。
そしてその白く細い手に、『神々の血雫』を握らせた。
「良いかいフェーア」
猫なで声で老婆はフェーアに言った。兄だった男二人はいやらしい目で仕事終わりのフェーアを見て、にまにまと嗤っていた。
「それを腕に着けなさい。それはおまえに凄い力をくれるものなんだよ。その力でこの娼館の連中をやっつけて、ありったけのお金を持ってきなさい。そうしたら……」
――ああ。
フェーアは目の前が真っ暗になるのを感じた。
人を好きになる事にさえ責任が必要なのだったら、私が家族に愛されたいと願う気持ちにさえ責任が必要なのだ。
その責が、今、こうして問われてしまった。
「フェーア!それは駄目!今すぐそれを捨てなさい!それだけは!投げ捨てなさい!止めなさい!」
背後からマダム・カルカの悲鳴が聞こえたが、もはやフェーアの耳には聞こえていなかった。
――もう、いいや。もう、疲れた……。
フェーアは『神々の血雫』を、己の手首に嵌めた。




