第281話 ごめんね
オレ達の有様を見た途端、アマディナが固有魔法を使うのが分かった。
駄目だとか止めてくれとかテオが言う前に、オレ達の負傷を――己の体と『交換』したのだ。
「……げぼっ!!!」
彼女は高々と血反吐を吹き上げて、そのまま倒れる。
あれだけのオレ達の損傷を……大ダメージを、己の体と無理矢理に交換してしまったのだ!
人間の体でアレを引き受けるのは、ムチャクチャだ!!!
テオは動けるようになった体で、でも震えながらアマディナを抱き起こした。
「は、母上!」
「……ごめん……ね、テオ……」
それだけ呟いて、アマディナは意識を失った。
「そんな言葉が!欲しかったんじゃない!!!」
テオは絶叫した。けれど、もう返事は無かった。
……フラフラと外に彷徨い出ると、そこは聖奉十三神殿の敷地だった。出てきた背後を見れば、物置に偽装された地下室だった。
……相棒。
エルフが要求を通すために……皇帝の生母であるアマディナを監禁したとしても、一切不思議じゃない。
オレ達が人気の無い神殿の中をトボトボと歩いていると、目の前にはまるで蟻地獄のような――大きな穴が生まれていた。
こんな所に大穴が、どうして……?
違う、この『穴』は!
咄嗟に穴の奥底へと声を掛ける。固有魔法が使えたと言う事は――少なくとも地面に落下した時には、まだ意識があったと言う事だからだ。
「タルヤン!」
「……殿下……」
生きている。オレ達が縄なり何なりを見つけて、早くタルヤンを助けに行こうとした時だった。
「私は、貴方を、愛していない」
「タルヤン……?」
最初、言われた言葉の意味が分からなかった。
でも、すぐに理解した。
ヴェロキラプトルのスキルは、『勝った相手から一番大事なモノを何であれ奪う』からだ。
「どうか、これを……」
「タルヤン、嫌だ、嫌だ!」
何かが夜の中を動いた気配があって、咄嗟にそちらに手を伸ばして掴んだものは、ハルハが縫いぐるみに隠して渡したチップと同型であろう別のチップだった。
「聖地の天頂部……『揺籃』の……中に……仕込んで……」
それから、怖いくらいの沈黙と息が苦しくなるだけの静寂が辺りを覆う。
「タルヤン………………………………………………………………」
何を叫んでも、問いかけても、もう何も返ってこないのに――しばらくテオもオレも放心状態で穴の縁にうずくまっていた。
分かっているんだ、このままじゃ駄目だって。
でも、でも――タルヤンまで。
「……行かなきゃ、このままじゃ、本当に駄目だ」
オレ達は、ややあって、動き出す。周囲を探したらすぐに愛用の二丁拳銃『シルバー&ゴースト・ネクスト』は見つかったが、落下の衝撃で銃身がひん曲がって、完全に使い物にならない状態だった。
それでも、それでもまだ聖地では戦火が上がっている。
「……行くんだ。終わらせなきゃ……ならない」
「ああ……。行くぞ」
「それが、僕達の……やるべき事だ」
……オレ達は一路、よろず屋アウルガを目指した。




