第270話 ガン=カタの構築
――テオが同母兄ヴァンドリックを庇って死ぬまで鞭打たれ、精霊獣クラウンとして転生したオレと出会って蘇生した後。
テオはしばらく……表向きは意識不明の重体だった。
医者達からは生きているのが奇跡的だと言われたくらいだ。
せめてもう少しオレと魂を分かち合うのが早ければ、すぐに治せたんだが……。
精霊獣は従える者の怪我をすぐに治せる、と言うと語弊が有るかも知れない。
自動で身を挺して負傷を肩代わりする、と言った方が適切なんだろうな。
まだ精霊獣がいない時に受けた傷は、精霊獣にもどうしようも無いのだ。
その大怪我を治している間の大半は、テオとオレの繋がった魂の中で、お互いの知識や経験を共有していた。動けないし、痛いし、他に出来る事も無かったからな。
「オレはスタントマンになりたかったんだ」
オレは映画『リベリオン』を見てガン=カタに魂を奪われた事、そこから映画に携わりたいと言う夢を持った事、親友だったノリとよく公園でガン=カタの真似をした事……等を話したのだった。
するとテオはしばらく考えてから、
「ガン=カタは、このままでは使い物にならない」
と当たり前だが突き刺さる事を言ってきた。
「そりゃそうさ、見栄え重視のムービーアクションだし」
爆発や特殊エフェクトを使わないと中々派手にならないと言う欠点を持つ、銃を使ったバトルシーンを――撮影費用を抑えた状態でも可能な限り派手に撮影するために、東洋武術や格闘と組み合わせるって言う新機軸の元で考案されたんだしな。
「だが、このまま……捨ててしまうには余りにも惜しい格闘銃術だ」
とテオは『リベリオン』の最終決戦を何度も再生しながら、酷く悩んでいる。
「じゃあどうするんだ?」
「……トオル。僕がタルヤン先生から武術も習っていた事は知っているだろう」
『知って』いる。
テオが万能の天才であるタルヤンを先生、先生と呼び、毎日のように武術から学問から何から何まで丁寧かつ厳しい指導を受けていた事も。
だったら……もしかしたら……いや、だとすれば!
「――なあ、オレはスタントマンを目指していたんだぜ」
危険なアクションシーン専門の、と言うまでも無く、テオは頷いてみせる。
オレは思わず唾を飲んだ。
「やる、のか……?」
恐る恐る右手を差し出すと、強く握られる。
「やるなら、本気でやろう」
オレも思わずテオの右手をしっかりと握った。
「勿論だ!この世界にある『重大な問題』と戦うためにオレはこの世界に呼ばれたんだしな」
「良いだろう。まず僕達が目指すは最強だ。兄上をお助けするために。……文句はあるか?」
「ある訳無いだろうが!」
――そうやってオレ達は握手して、ガン=カタの極致を目指す事にしたのだった。
それからは試行錯誤の日々だった。オレのスタントマンとしての経験に、テオがタルヤンから教わった武術を取り入れて、オレ達のオレ達によるオレ達のための『ガン=カタ』を創り出すために、毎日毎晩、成功と失敗を繰り返した。
「それじゃ背後からの敵に対応できない!そこは!こうだ!」
「でもこの体勢じゃ予備動作が見抜かれる!」
「だったら反応速度を上げるだけだ!」
「駄目だ、三半規管がやられて倒れるぞ!」
「耐えてみせる!」
「……良し分かった!オレが付いている!」
ユルルアちゃんを真っ先に仲間にして、オユアーヴ、クノハルが加わった頃には。
オレ達の『ガン=カタ』は、全て完成していたのだった。




