第261話 アルセーヌVSシャドウ、初戦
ちょうど、ユルルアちゃんやロサリータ姫が掴んだ情報を、全員で共有している時だった。
『聖地からエルフが「神々の血雫」をぶちまけたらしい。それで、聖奉十三神殿の辺りが大混乱になって人死にも大勢出たそうだ。運悪くヴォイドにされた人間も相当数出たんで、帝国軍が出動して厳戒態勢で一帯を封鎖しているんだと。……今朝からゲイブンが腹を壊していて、不幸中の幸いだったよ……』
「……は?」
ロウからの無線通信の内容があまりにも常軌を逸していたので、オレ達も飲み込むのに時間がかかった。
「……兄さん、その情報は、何処から?」
クノハルも目を見開いていたが、水を飲んでどうにか訊ねる。
『生きて戻ってこられた人間が吹聴して、まあ尾鰭腹鰭背鰭まで付いて、今や帝都中が大騒ぎだ。聖地と帝国が戦争になったってな。……しかし精霊獣を従えた者の骸を勝手に暴いていたのか、エルフ共は……』
「まだヴォイドが残っているかも知れない。僕が出る!」
『気を付けろよ、流石に一帯を封鎖されちゃあ俺達も助けには行けない。……噂じゃエルフは相当に高度な魔法技術を持っているらしい、何が出てくるか分からんぞ』
『何や、あんさんも拳銃持っとるやんけ!』
この仮面の男は、何だ!?どうしてオレ達のように拳銃を持っているんだ!?
「貴様はエルフの仲間か」
『仲間やないで、半分や。俺は「隷械獣」、「隷械獣」の「ヴェロキラプトル」やぞ?』
「『隷械獣』だと……?」
『まああんさんらは何も知らんわな?いつもは俺も「怪盗アルセーヌ」って名乗っとるし。でもこの名前なら聞いた事あるやろ――精霊獣インベンダー』
「!」
仮面の男が嗤うのが分かる。
『俺のこの体の元・持ち主の名前や。まあ後は察してや?俺、詳しい説明は得意やないさかいに』
「エルフは……皇族の骸を暴き、彼らが正統に従えていた精霊獣を外法で蘇らせた上に奪ったのか!」
『外法だの奪ったのだの言うてもなあ。仕方無かったんや、他にはどうしようも』
そう言いながら男は二丁拳銃を構える。
『俺に勝ったら全部教えたる。でもあんさんが負けたら……俺はあんさんの一番大事なモノを奪うで?それが俺の「スキル:スティール・ルシファー」やから』
――お互いに隙を狙って、二丁拳銃を抜いたまま動かなかった。
最初に動いたのはオレ達だった。
「ガン=カタForm.9『ハーミット』!」
回避に重点を置いたガン=カタの型を選び、一気に距離を詰めながら魔弾を放つ。
「ガン=カタForm.12『ハングドマン・リバース』!」
まるでお互いに踊りながら戦っているようだった。
一瞬の油断と判断ミスが即死に繋がる死の舞踏。
拳銃で拳銃を弾き、弾道を予測しつつもお互いの型を崩して、続けざまに魔弾を叩き込む。
言葉なんて交わす余裕は無い!
コイツは強い!
オレ達がそれでも負けるものかと無言で撃ち合っていた時だった。
――背後に、突然の気配。
「「シャドウ!」」
ギルガンドとヴェドの大声がした時――オレ達はかつて処刑された時に死ぬまで鞭打たれた背中を、バッサリと斬られたのだった。
目の前で仮面の男がゲラゲラと嗤った。
『いやー!あんさん、ほんまに強いわあ。……だから俺が卑怯な手を使っても仕方あらへんやろ?』
倒れながらオレ達が振り返った先に――いたのは。
「……タルヤン……?」
「……」
テオの武術師範で養育係だった、タルヤン・トアノだった。
マズい、先にこの大怪我を治さないと!意識を背中の怪我に集中してくれ、相棒!
オレは咄嗟に相棒に呼びかけた、でも――。
「どうして……」
テオは、相棒は、愕然としていて、オレが呼びかけても何も応えてくれなかった。
「もう、この世界に救いは無いのです。もう、この世界は終わるべきだ」
タルヤンはそう告げて、テオの体を――真正面から――心臓を剣で刺し貫いたのだった。
「貴様!」
ギルガンドがヴェドを降ろし、ヴェドがオレ達に駆け寄る。そのままギルガンドはタルヤンに斬りかかったが、
「もう、疲れました」
一閃が弾かれた所で、辺りを閃光弾の光が焼いた。
声だけが、残る。
『いや、案外呆気なかったわー。まあ仕方あらへんよな?俺は最強になったんやから。それじゃあんさんの一番大事なモノ、奪ってくでー!』
「……最強とは、何なのでしょうね。もう、何も分かりません」
『ぐ……ぐぐぐぐ……』
オレは強引にテオの体を動かして、『黒葉宮』に帰り着いた。合図をするとロサリータ姫が隠し戸を開けて、マスコットがオレ達を寝台に運び込む。
『誰に……やられたの?』
『「怪盗アルセーヌ」はインベンダーの体を奪っていたんだ……!しかもタルヤンに不意打ちされて――畜生!テオ、おいテオ!返事をしろ!このまま黙って終われるかよ!』
「……」
テオは返事をしない。どうにか体の傷はオレの全力で治しているのだが……心に相当なダメージを負ったらしい。
「……ユルルアは、何処だ?」
しかし、ややあって、そう訊ねた。
畜生、この甘ったれ野郎が!
またユルルアちゃんに甘えて心のダメージを癒やして貰うつもりだな!?
「『……』」
ロサリータ姫達は答えなかった。先にオレ達の声を聞いたのかクノハルがやって来た。
どうしたんだ……?
今まで見た事が無いくらいに、クノハルは真っ青な顔色をしている。
その手には一通の封筒を持っていた。
「つい先ほど、ユルルア姫は『怪盗アルセーヌ』を名乗る男に拉致されました」
オレ達が差し出された封筒を開いたら、『返して欲しければ聖地まで来いや』と書かれていた。




